the incarnation of world
朱眼鮮血

第二章 理由と試験








 寮生たちは今日会ったばかりの人たちと話をし、先輩なども混ざった賑やかな暖炉などもある広い空間の談話室である。
 シンジは自己紹介が終わり椅子に腰掛けて扇子を取り出している。
 決められた服装があったのだが、シンジの強引な説得により、黒和服が正式なシンジの校内の正装となっていた。
 寮生にはハリー・ポッターの兄であり師匠であり、ハーマイオニーとロンは知り合いだと話した。よって寮対抗の毎年最優秀寮を決めるポイントを与える権限はないと、そして、受け持つ科目は『闇の魔術に対する防衛術』の副担当として手伝うと話し、後は適当に挨拶をしていったのだった。
 シンジの前にはハリーとハーマイオニー、ロンがまだキョトンとした表情のまま椅子に座っている。シンジは心の整理がつくまで待っていた。
「それにしても先生がホグワーツ魔法術学校の教論になるなんて、思いもしませんでしたよ」
 やっとハリーが復活し話し始めた。
「家に一人でいても寂しいからね、それに弟子の様子は直接見れるところにいたほうが把握できるし」
「……それじゃあ先生からホグワーツにいても教えてもらえるのですね!」
 シンジの言葉でハリーに笑顔が浮かぶ。やはり魔術系統が違うのをホグワーツで学ぶので、今までの魔術の精度と威力、今だに伝えてもらえてない魔術などシンジから学びたいと思っていたのだ。
 ハリーぐらいに学んでいる期間が長いと、自分のやりたい研究に没頭する傾向があるのだが、やはりまだ子供であるということだろう。人から学ぶことが多くあるのだ。
「シンジさん、私にも教えてもらえないかしら?」
 ハーマイオニーがハリーの表情を見て自分も教えてもらえないかなと期待のまなざしでシンジを見つめる。
「あ、僕もだめかな?」
 それにロンが続く。
「あまり教える気はないんだけど、ラテン語を覚えてきなよ。重要な魔導書には必要不可欠だし、基本だからね、そしたら考えておくよ」
 自分の魔術とは他者へ伝えるものではない、なぜなら自分の研究は己の探求心により、『魔法』を目指し、魔術師は孤高でなくてはいけない。
 魔術とはより多くの人に知られた場合その精度、威力が落ちる。しかし、ハリーのパートナーとなりそうだなとシンジは思ったのだ。
 だから、シンジは基本的なことを教えるのと、身を守るのに役立つ魔術なら刻んでもいいかなと感じていた。
「分かったわ、絶対に覚えてきます」
「今思えば学校の授業に加え、そんなに僕できるのかな」
 自信溢れるハーマイオニーと自信乏しいロンの表情が対照的だった。
「そおいえば気になってたんですけど、教論になれるなんてシンジさんって何歳なんです?」
 ロンが疑問に思ったことを口にする。シンジの容姿は、自分の兄とそう年が離れているようには見えないのだ。なのに学校の教論になれるなんてビックリである。
「年?数えるのは千を超えたらめんどくさくなって止めちゃたよ」
 シンジは扇子を左右にパタパタと振りながら、隠さず言い放った。信じる信じないは自由だし、年を言ってもこの先障害とはならないと思っているのだ。
『……えっ!?』
 ロンとハーマイオニーの声が重なる。シンジが嘘を言うとは思わない、そして表情は二人とも驚きのままで固まってしまった。シンジとハーマイオニーは話を多くしていたが、年に関係する話題は出ることがなかったので、初めて知ってビックリである。
「信じる信じないは自由だよ、それに僕は魔術師だしさ」
 シンジはそう言ったが、ハリーは説明足らないなぁと思いながら今だに固まって思考中の二人を眺めてみる。
「先生、魔術師だとしても普通そんなに長生きできませんよ」
 このままでは自分には年齢詐欺疑惑が生まれるかもしれないとハリーは思い、シンジの言葉を切り捨てた。
 魔術師は不老不死なのかと考えて至りそうだった二人だが、ハリーの言葉に答えが消滅してしまい、より深みにはまっていってしまった。
 その様子を面白く眺めていたシンジは話しだした。
 自分は『異世界』から来たことを、今まで旅してきた『世界』では割と信じられ、問題なく暮らせてたので、前にハリーに説明したことを二人にも伝えた。相手を信頼させるには、本当のことを少しずつだか教えてかないと信用もされないと知ってたからだ。
 その後は談話室に他の生徒がいなくなるまで話し、マクゴナガルが来るまで続いていた。






















 周りには木々が溢れ雲一つない蒼空から木漏れ日が零れている。
 シンジは誰もいないその場所で横になり空を眺めている。しかし、いつもは無邪気さがあるその瞳には光がなく、人形のような瞳だ。
 ここにいるシンジという存在は綾波レイと渚カヲルにReprogrmmingされたようなものなのだ。『世界』のための人形として『制約』に縛られProgrmmingされた義務を、行っていくはずだったのに『制約』を外すのを第一にReprogrmmingされて目的のない人形となってしまったのだ。
 『世界』に記録されていた『シンジ』という存在を参考に人形へ記録を与えたのだが、記憶とはならずシンジでありシンジでないものが生まれた、自分のではない他者の記録を覚えさせられたようなものだ。
 シンジが行うと思われる行動をこのシンジは行っていったのだが、『寂しい』という記録により旅に出た。それによって様々な『意志』に触れ、記録されたシンジでないこのシンジを形作ってきたのだが、虚無より生まれた存在。
 人形であったがゆえに、目的を探し、目的が消えるのを怖れている。なぜなら人形は、目的がなくなったら動かなくなってしまうのだから。



   これが千を超える年を過ぎた人形が得た存在理由。




「先生ー!」
 遠くからハリーの声が届き、シンジの瞳に光が灯る。起き上がりシンジは後ろから来るハリーの方へ振り返った。
「何してるんですか?」
 シンジが振り返ってから走ってきたハリーは、やけに暇人風なことをしているこの人に尋ねる。
「蒼空が綺麗だなと思ってさ、眺めてたんだ」
 ―――否、何も感じてなかった。
「そうですね、今日は雲一つなくいい空です」
 ハリーはシンジの底にあるものを知らず、空を見上げた後に微笑みを浮かべる。
「じゃあ、そろそろ学校へ戻るけどハリーも来るかい?」
 シンジは立上がり、服に付いた埃を軽くはたいた。
「ハーマイオニーが先生にラテン語で質問があると言っていましたよ、今は図書室で勉強しています」
「分かった、じゃあ行くか」
 シンジはハリーの頭をクシャクシャと撫でると歩を進める。



   今の目的はハリーを見守り育てること




 ハリーもとことこついていく。その日にはもう読むことなら様になってきたハーマイオニーにシンジは感心しながら魔術を伝えることを決意する。
 ロンは授業の課題などでとまどり、シンジから魔術の教えを請うことをハーマイオニーの凄さを認めながらあきらめた。






















 蒼い空、白い雲、草木香る自然溢れるこの下で箒を片手に歩いている。
 ハリーにとって無意味な道具、いや自転車並の価値がある箒である。
 この『世界』の飛行箒は、杖と同じで乗り手の体内魔力を増幅し推進力を得て、制御し任意の方向に進むのである。
 しかし、ほうきの許容量以上の魔力を注ぎ、進んでいくと壊れてしまう。車でいうとリミッター外して走っていたらエンジンが壊れるようなものだ。

「……はぁ」
 ハリーが溜め息をついた。それに気付いたのは、なぜかいたシンジである。
「どうした?ハリー」
 突然の登場に驚く様子なくハリーは答える。なぜなら『外れ』ていると知っているから。
「この箒、もう4本目なんですよ。スピードを上げようと、つい注ぎすぎてしまって壊れちゃうんです」
 落胆しながらほうきを立てて、その上に手を顎を乗せて話し出した。
「じゃあ初めから速かったら平気なんだね?」
「そんなの学校の安いほうきにはありませんよ」
「いや、改良すればいいんだよ」
 そう言いながらシンジは黒和服の懐を探る。
「えっ?」
「ほら、これ」
 シンジの右手には爪の長さくらいの石片が乗っている。
「先生、これは?」
「マックスウェルの魔石という精霊石だよ。結構前にいた『世界』で精製法を教えてもらったんだ」
「マックスウェルの悪魔は速い分子と遅い分子を見分ける能力があって、速い分子は空間へ入れるけど、遅いものは空間を閉じてしまうんだよ」
「速いものを通した空間はどんどん高温になっていって、これを排気させ、また蓄積を繰り返し後方に吹き出すことによって飛行するのが『マックスウェルの魔石式飛行箒』っていうんだけど、飛行箒の場合は半端なく速くなると思うよ」
 そう言い終えると、シンジはハリーから箒を借り、その後方に魔石を放り入れた。
「制御が難しくなってるけど、ハリーには平気だと思うよ。終わったら回収しといてね」
 箒を渡すとシンジは去っていってしまった。
「ありがとうございます」
 ハリーはその後ろ姿を見送り、いつも手助けてしてくれる人に対して感謝した。






















 ハリーは壊した3本目を取り替えて、練習場にやって来た。
「ハリー・ポッター、遅かったですよ、どうしました?」
 体格のいい女性、マダム・フーチである。
「なんでもないです、フーチ先生」
「そう、今は自由練習なのでパートナーの下へ行きなさい」
「はい」



「ハリー、遅かったけどどうしたの?」
 ロンが心配というより、興味本位で聞いている。
「先生に会って、この箒を細工してもらったんだよ」
 ハリーはほうきをロンに見せる。
「シンジさんが?」
「うん、なんか半端なく速くなったってさ、じゃあ乗ってみるね」
 ハリーは箒に跨がり集中する。そしたら、いままで聞いたことがない、低いような高いような音が鳴り、ほうきが飛び上がり、加速して加速して加速していく。
「……は、速い。[雷の鉄鎚]より速いんじゃないか」
 ロンはハリーが見えなくなった方を向き、そうつぶやいた。ちなみに[雷の鉄鎚]は金貨400枚の高級品である。ロンはハリーがクディッチという飛行箒を用いた魔法界のスポーツをやらないのを勿体無く思ったが、シンジから魔術の教えを受けるほうが楽しいと薦められる度に断っていることは仕方がないのかと思った。
「すごい!すごい!すごい!僕が魔術で飛ぶより倍も速いし、障壁を展開しないと息ができないぐらい速いじゃないか」
 吹き抜けていく風の音、心地のいい鼓動、現れては消えていく流れる緑
 そのどれもが素敵である。
 これによりハリーは風になった。
「息子の喜ぶ顔を見れるのはうれしいねぇ」
 シンジがハリーを見れるところにいるのはご愛嬌。






















某月某日
「先生ーいますー?」
 シンジの部屋に来たはいいが肝心の人がいなかった。
「あれっこれは」


 『シンジと私の子育て日記』筆by黒猫リン★



「黒いリンもいるんだ、先生の使い魔かな、気付かなかったな」
 ハリーは気になり日記を開いてみた。

 今日は副担ででてる科目なんだけど途中で飽きたらしくシンジは寝てました。ハリー君頑張って勉強しなよぉ。


 今日はハリー君が箒で空を飛びました。転移、浮遊ができるから役立たないなぁと思ったよ。あとハーマイオニーちゃんが魔女っ子に見えて萌えました。猫だけど犬耳と尻尾を付けたかったです。


 今日はスネイプ教授の薬草学の授業に混じってました。だけど琥珀さんの注射を思いだしシンジと共に逃げちゃった。
 その後、ほうきと薬のことを考えていたら、前訪れたことのある『世界』のほうき少女マジカルアンバーが窓の外を飛んでました。ここまで薬の材料を奪いに来るんだね。
 あなたのことは私でも理解できなかったよ。ほうきのこと聞いたら、動力はプラズマです!ってガッツポーズされながら言われたら無理やり納得するしかないじゃん。
 ……もう決して見掛けませんように。頭グルグルになるから。



 今日は暇なので森の番人ハグリットのとこへ行きました。留守だったみたいで、犬っころと遊んだところビクビク震えて逃げちゃった。女の子なのに……クスッ、勘が鋭いね。




 パタンッ
(元の位置に戻してと)
「……先生大丈夫ですか?それと黒猫のほうのリンが脳にキテしまってますよ」
「………」
「………」
「………」
「信じてますよ、先生」
 ハリーは見なきゃよかったと思いながら部屋をそそくさと出ていった。

 扉が締まるとベットから顔をだした黒猫は、窓から外へ日記のネタ探しへ行きましたとさ。






















 賑やかな空間、彩られたその場所でハロウィンが催されていた。 いつもより随分豪華な食事を囲み友達と談笑しており、先生方も楽しんでいる。
 シンジは指定の席には座らずに、三人のところに混ざっている。
「料理がおいしいね、けど全部手作りじゃないのががっかりかな」
「そおですか?僕こんな大きなパーティー初めてで、楽しいですよ」
 ハリーは柔らかい笑顔を見せる。
「そお?日本の祭りには連れていったじゃん」
「内容が全然違うと思うんですけど……」
 ハリーはシンジの言葉を少し呆れながら聞いて、取り皿に料理を乗せる。
「日本の祭りってどういうものなのかしら?」
 オレンジジュースをコクッと飲み、ハーマイオニーが尋ねた。
「え〜とね、広場とか通りに小さなお店が並んで、まわりながら雰囲気を楽しむイベントかな」
 シンジは少し思案しながら簡単に言葉で纏めてみた。
「ん〜よく分かりませんけど、楽しいイベントなんですね」
「あの雰囲気を言葉で表すのは難しいからね、いつか連れて行ってあげるよ。もちろん、ハリーとロンも一緒にね」
「そう?じゃあ、楽しみにしてますね」
「んっ……」
 シンジは急に姿勢をただし扉のほうを見つめる。
「どうかしました?シンジさん」
 シンジはハーマイオニーに答えず、ハリーのほうを真剣なまなざしで向く。
「ハリー・ポッター、魔が来ました。魔術師碇シンジは師匠として試験を与えます。これから来る下級上位鬼種トロールを殲滅しなさい。ただし使い魔白猫リンを行使するのを禁じます」
 一瞬驚きを浮かべたハリーだが真面目な表情になり。
「ハリー・ポッター、拝命いたします」
 シンジは次にハーマイオニー、ロンのほうを向き。
「並びにハーマイオニー・グレンジャー、ロナルド・ウィーズリー。ハリー・ポッターの試験の立ち会いを頼みます」
『わ、私たち(ぼ、僕たち)がですか!?』
 驚き、困惑という至極、当り前の表情を浮かべる、なぜなら自分たちがいたらハリーの邪魔になると思ったのだ。だがシンジは急にくだけた感じになり。
「危険はないから、校内の様子は僕がすべて把握してるし、任せるよ」
『はぁ、分かりました』
 溜め息混じりに二人は承諾する。
「あれっ?先生はその時何してるんです?」
「秘密だよ、さて、知らせが来るかな」
 シンジがそう言うと扉が開かれ、息を切らした『闇の魔術に対する防衛術』の担当のクィレルが走りながらダンブルドアの下にやって来た。
「ト、ト、トロ、トロールが!……」
 情けない声を出すと倒れてしまった。その後、ダンブルドアは生徒の避難を促した。
「さて、ハリー、久しぶりの実践だ。頑張れよ」
 そう言うとシンジは避難していく他の生徒に紛れて消えていく。
「じゃあ、行きますか!」
 ハリーはハーマイオニーとロンを連れだち扉から出ていった。






















 ハリーたちは古めかしい石造りの通路を歩いている。しかし、苔くさい匂いもなく木々の香りの詰まった空間である。
 ハリーが振り向いた。
「ロン、これ持ってて」
 ハリーは眼鏡を外す。眼と脳のチャンネルを繋ぎ、眼の色彩が碧から蒼に変わる。
 ハリーの魔眼は単に相手の攻撃意識にそって色彩化し、線を視るだけではない。
 人の感情までも色として識ることができるのだ。このときロンに視えた感情色は<驚き>と<感嘆>このことからも、ロンに対して好感を持てる。眼の色が変わるという自分とは異質のモノに<恐怖>を発していないのだ。
 ハリーが自分で制御し『魔眼殺し』の眼鏡まで掛けているのは、人の全てを識りたくないから、もし力が強まったり、識りすぎたらハリーという存在が薄くなり、自我崩壊を起こしてしまうのだ。
 ロンには線のことは話したが、人の意識まで識れるとは話していない。大丈夫かもしれないが、もし怖れられるかもしれないという考えが恐いのだ。
 ハーマイオニーにはシンジから眼のことを知られてしまっている。しかし、自分の思いを知られてしまう眼に対して畏怖を覚えないことに関しても、シンジがハリーの次にハーマイオニーを弟子にとったことは正しいだろう。
 ロンは受け取った眼鏡を掛けてみて、すぐさま外す。
「ハリー、この眼鏡に矯正入っているけど外して大丈夫なの?」
 ロンにとって掛けているだけで、気持ち悪くなるほど度が強い眼鏡を外すハリーを心配しているのだ。
「平気だよ、線ははっきり視えるし識れるから」
 そう、ハリーに言われロンは眼鏡をポケットに入れた。
 ハリーには本当に<心配>しているのが識れるからうれしく思う。
「ハリー、トロール殲滅のとき怪我とかしない?」
 ハーマイオニーも<心配>しながら別のことを尋ねる。
「下級上位鬼種なら大丈夫だと思うよ、効率よく戦うし、知能が高いトロールでも比較的倒しやすいからね。中級上位鬼種なら相打ちになると思うけど、そんなのはいないし」
「そう、なら心配しなくても大丈夫ね」
 ハリーは心底、ホグワーツ魔法術学校に来たことをよかったと思った。
 『あちら』側の、しかも、小学生は自分たちと違うモノに対して差別するということがあるのだ。もしかしたら、『あちら』側でも仲の良い友達ができたかもしれないが、今『こちら』側で得た親友を大切に思う。
 ハリーがそう思っていると、壁に妨げられながらに視えていた色彩だけでなく、この木々香る空間を穢す魔の匂いが漂ってきた。
「二人は離れて」
 そう告げると廊下の角を曲がる。20m先にいたのは醜い風貌と高さ4mはあろうかと思われる巨体。人外の太い手足と人など軽く叩き潰せるだろうな棍棒を手に持っている。トロールである。
 色彩が視える。トロールが自然に動かす手足の振り、意識的に振るっている棍棒の軌道。そのどれもが線となり識ることができる。
 ここでハリーが視ている色彩について纏めてみよう。棍棒を振るっての物を壊す軌道は“蒼”。もし生きているモノを殺す軌道は“紅”。もちろん死に至らしめない軌道も視えるが、その場合は色彩が薄くなる。
 もし爆弾などの広範囲に広がる攻撃ならばその範囲に色彩が満ちる、その後爆破が起こるのだ。
トロールが振り向きハリーの方を見る。
 目標は殲滅。絶対の防御となる魂に刻まれた力は自由に使えない。リンも行使できない。学校で習った魔法では殲滅できない。



   ならば慣れ親しんだ魔術のみ




 身に刻まれた魔術を行使するために『世界』に満ちるマナを集め、魔術回路を組み上げていく。魔力とはこの集められるマナの絶対量のことをいう。体内にも含まれているが、『世界』と比べ『個人』は塵に等しい量だ。
 魔術回路の代表といえる言葉『言霊』を紡ぎ、『自然』に干渉を始め。



   爆音




 限界まで圧縮された水が、上げられた右腕の先、トロールの上半身を吹き飛ばす。
 一条の矢、否、そんな優しいモノではない。あの巨体の上半身全てを覆う龍となり、喰らい、その先の壁まで打ち壊し、学校の外に抜けていった。
 後に残されたのは、龍が通りバラバラにされた絵画や調度品、それにより暗闇、血を噴水のように廊下に打ち撒けるトロールの半身と噎せ返るような血の匂い。
 しかし、光が消えた空間でもハリーにはその半身が僅かに動くのが視えていた。それは意識ない肉の塊が、倒れる軌道でも動く線が識れたのだから。



   目標は殲滅



   もう一度



   爆音




 音が鳴り響いたら、そこには無残な空間。トロールも、血の匂いも、絵画や調度品までもが全て洗い流されていた。
「あぁ、終わった終わった。ハーマイオニー、後は任せたよ」
 その光景に驚いていたハーマイオニーは我に返り、杖を構え言霊を紡ぐ。
 そしたらトロール以外が元に戻された空間が広がっていた。
 シンジに教えを請い、確実に魔術師として、この『世界』での魔法使いとしても驚くべき早さで成長している。
「すごいね、ハリーにハーマイオニーも、じゃあ試験終了ということで、先生たちが来る前に戻ろ」
ロン絵 双葉  すごいとは言っている割りには、全然驚かない様子で平然と帰りを促した。
『そうね(だね)』
 このロンの態度を見て、ハリーはロンに眼の秘密を話す決意をする。このような光景を見ても平然としてる彼なら、今まで通りでいてくれると思ったのだ。
 爆音を聞き付けやってきた者たちが見たモノは、何も変わらないいつもの廊下だった。






















 シンジは学校の外、すなわち、魔が来る境目、ダンブルドアが設置した簡易障壁のより魔の気配がする方面にやって来ていた。
 折角楽しい宴なのにトロールのせいで台無しだ。まぁ、トロールは殲滅を命じたからいいが、ここに来て人為的なことだと分かった。この事件の主犯を捜し出さないと気が済まない。
(陽動により校内が目的か)
 そう思いシンジは意識を広げ、校内外を把握し、人、一人〃〃がどこにいるかを意識内の疑似時空間に前後30分を記していく。
 お手洗いにいる生徒が計3名、ある空間の前にクィレルとスネイプが順に立ち寄り、スネイプは血を流している。他には非常な状態になった者はいない。
 それによりデュラックの海を展開し、過去にダンブルドアに行った登場をスネイプにする。
 黒和服が現れたらスネイプは後ろを向きながら尋ねる。
「誰だ……イカリか、何のようだ」
 スネイプは憮然とした表情である。
「怪我したようですけど大丈夫ですか」
 シンジは口許を吊り上げ笑みを湛えながら、心配せずに聞く。
「平気だ」
 スネイプは無表情に答える。
「何がありました?」
 その質問に眉を顰めたが、
「特記事項に触れることだ」
「そうですか、なら聞きません」
 そう言い、シンジはその場を離れた。
 シンジは次に、スネイプが怪我したところにいたクィレルの下に行った。
「クィレル先生、扉の前で何してたんです?」
 クィケルの前でもニヤリ笑みを浮かべ尋ねる。
「な、な、何のことかな。私はさっき気が付いたばかりですよ」
「そうですか、なら聞きません」
 そう言い、シンジはすぐに立ち去る。準備は好きだが、平行線を辿るめんどくさいことが嫌いなのである。話さないのなら聞かない。
「……んっ、ハリーはトロールを殲滅したか、ハーマイオニーの修復も完璧だな」
 シンジは純粋な笑顔を浮かべ、ハリーたちの下へ向かった。






















「あっシンジさん」
 ハーマイオニーに続きハリーとロンがシンジに気付く。
「ご苦労様、二人とも試験に合格だね」
 シンジはハーマイオニーとロンの方を向き話しかけた。
『私(僕)がですか』
「そうだよ、ハリーには今更な相手だったし、トロール殲滅後が二人の試験だったんだ。ハーマイオニーは魔力回路が多いとはいえなかったから、僕の教えた魔術の知識と杖の応用で大掛かりな復元呪詛の自分以外への行使を行い、ロンはどのような事柄が起こっても平然とできる素質を開いた」
「二人に僕が求めるのは、ハーマイオニーには魔術を行使するときの少ない魔力で行えるように燃費をよくすること、ロンには魔法界のチェスが得意のように戦略戦術を考え指揮することを目指してほしい、それが僕からの課題だよ」
 二人は千年を生きる魔術師碇シンジに認められたことをうれしく思った。
『はい、分かりました』
「ハリーとハーマイオニーはいつも通り魔術を教え、ロンには戦いだけでない戦略戦術パターンを刷り込み、疑似空間で行ってもらうよ」
『はい』
 三人の声が揃う。
 ロンは自分で魔法術を苦手としていたので、得意なことに連なる戦略戦術を学んでいくということうれしく思えた。それにシンジの話では戦いと限定したモノではないということもうれしく思えた原因である。
「じゃあ、今日はここら辺でおやすみ」
『おやすみなさい』
「私も眠いので寝るわ、おやすみ、ハリー、ロン」
「また明日」
「おやすみぃ」
 シンジは宿舎へ行き、ハーマイオニーは女子寮へ、ハリーとロンはそれぞれ挨拶をすると部屋へ戻っていった。




第二章 理由と試験 終幕






 




あとがき

 シンジ君は人形でした。しかし『意志』を学び、成長してこのようになりました。そして、いまだに目的を無くすことを恐れています。目的を完遂し、次の目的を探します。途中で定めた目的が消滅したら、かなり大変なことになってしまいます。

 途中に『ああっ!女神さま』の箒が出てきました。様様な『世界』を旅したので、いろいろなことを知っています。『抑止力』は恐ろしいものなのに、頑張って旅してます。

 物語のショートカットのために某月某日黒猫リンがいましたが、決して表に出てこない存在です。現れるとしたら今回と同じような登場ですが、この後出てくるかは未定です。割と失敗ばったかなとも思っていますが、どうでしょうか?雰囲気を壊してしまったか、息抜きできたかのどちらかと思います(苦笑)
 絵の上手い友人の双葉氏に挿絵を頂きました。オリジナル風で描いてくれと頼み、快く引き受けてくれ、とてもありがたいです。彼に感想を送ってもらえるとより多く描いてもらえるのでお願いします。私は『第一章』のハーマイオニーを気に入りました。
あとがき双葉氏

今回、初めて挿絵を描かせて頂きました水谷司と申します。
まだまだ未熟なので、いろいろ大変だったものの、とても楽しんで書かせて頂く事が出来ました。
何か助言とかアドバイスをして頂けると嬉しいです。


[第一章] [書庫] [第三章]



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