the incarnation of world
朱眼鮮血
第三章 一つの想い
今シンジは教壇に立っている。『闇の魔術に対する防衛術』の担当のクィレルが、二日間の休暇が欲しいとダンブルドアに申し出たので、副担当のシンジが教鞭をとっているのである。 ホグワーツ魔法術学校に残るために適当に選んだ科目で、まさか本当に生徒たちに教える日が来るとはシンジは思ってもいなかった。 自分の魔術を教えるつもりはない。一応、この学校で使っている魔導書は『記録』していたので授業は行うことはできるのである。だが如何せん大概この時間は、クィレルの授業がつまらないので生徒たちの後ろで寝ていたのだ。だから、実は前回の授業を引き続き今回行うことができないので、簡単な口上と持ってきたあるモノを使っての授業をすることにした。 「まず注意しときます。呪文とは完璧なものではなく、相手が強大なときや賢いときは破られることがあります。そのとき、最も恐れることは『呪詛返し』です。それは人外のバケモノや魔法に関して熟知している者との戦いのとき、隙となり君たちは死ぬことになります」 シンジはいつもの怠惰を感じさせず、高らかに授業を始めた。 「なので僕は、そのようなモノたちと戦うことになったら逃げることを薦めます。無理に制御が難しい呪を使い自滅したら、それはとても滑稽です。引き際を考えてください」 死や逃げるという言葉に、生徒たちに動揺が広まる。 「けれど、そのモノたちと戦う術を知っていたほうが戦術が増え、より生き延びることができるでしょう。なので君たちの中から二人に、下級中位獣種への対応を実践してもらいます。呼ばれた者以外はその二人の対応を参考にしてください」 驚きの声が上がる。今までクィレルの授業での実践訓練はなかったのだ。しかし、声が静まったら所詮動物ではないかという馬鹿にした思いを浮かべる生徒が多くいる。けれど、この中にどれくらいの者が、人より動物のほうが生き物として優れていると知っているのだろうか。 「では各二つの寮代表としてハーマイオニー・グレンジャー、ドラコ・マルフォイ前に出てきてください」 至極当然や切望、嫉妬の声が聞こえる。 ちなみにグリフィンドール生とスリザリン生は同時間に同科目を受けている。 今、名前を呼ばれた一人はグリフィンドールで、天才と呼ばれるマグル出身の魔法使い兼『魔術師』ハーマイオニー。しかし、親しい人は天才なのでなく彼女自信の努力によって培われた力だと知っている。天才という言葉で済ませるのはあまりにも可哀想だ。 片やスリザリンで、この『世界』で魔法使いを輩出するマルフォイ家で幼い頃から魔法に関わっていたドラコ。親から教わった魔法も覚えし才能ありの魔法使い。しかし、少し慢心の気があるのが欠点である。 「はい」 「……はい」 ハーマイオニーに続きドラコがシンジの前に出てくる。 「じゃあ、相手はこれだ」 シンジは生徒たちから見えない、教壇の後ろに黒く滲む影から2匹の獣を引き摺り出した。 両手に持っているのは犬、だが2mを超える大きさだ。その眼の中には黒いモノが渦巻いており、犬歯は尖り人の頭をたやすく噛み砕く牙である。体毛は黒曜石のような艶を持つ毛質、だがその下には鋼のごとく強靱な筋肉が隠れている。しかし微動だにせずシンジに掴まえられている。 ただの犬ではない――――それが生徒たちの感想だ。 「この2匹は『縛って』あるので『解呪』しないかぎり動きません。一人ずつ実践します。まずハーマイオニー、位置に着いてください」 「はい」 シンジに言われ、ハーマイオニーは部屋の端に寄った。 初めての実践にハーマイオニーは若干緊張している。しかし、それは程よい緊張で戦闘では良い状態だ。 「じゃあ始めるよ」 そう言うとシンジは狂犬を見つめ、その紅眼が幽かに火を灯す。その直後、シンジに飛び掛かってきた。 生徒たちにとって予想外の展開で悲鳴が上がったが、シンジにとって理解の範疇であり、口許を吊り上げニヤリと笑みを浮かべる。 それに何を感じたか知らないが、狂犬は身を翻し瞬く間に部屋の端に寄る。しかしそこには、一人の少女が立っている。狂犬はそれが邪魔だと思い、頭に狙いを定め、噛み砕こうとする。 一瞬 『言霊』が流れ、狂犬が浮かび上がる。その足は空を切り何もできず凶った眼をハーマイオニーに向けている。 シンジはその様子を嬉しそうに見つめる。 「魔法使いとは最強ではなく、ある分野で頂点を目指せばいいと思います。戦闘のとき相手を倒すのではなく、相手を制すればいいんです。なので宙に浮かし、自由を奪ったハーマイオニーの判断は正しいです。対象が遠距離から攻撃できるのならば、また呪文を重ね制すればいいです」 シンジはそう云うと、狂犬に近付き首元を掴み、奥の部屋に向かいそこで対象を送還した。そして、何食わぬ顔で部屋に戻る。 「じゃあハーマイオニーは席に戻ってください、次はドラコ、位置に着いてください」 「はい」 「……」 ハーマイオニーが席に戻り、ドラコが無言で位置に着く。 「じゃあ、始めます」 再びシンジの瞳に火が灯る。狂犬が動き出したと同時にドラコの『言霊』が紡がれた。 『言霊』と同時にドラコの杖から放たれた不可視の光は狂犬を包み、従順な僕とならしめた。ドラコが用いたモノはこの『世界』で『許されざる魔法』と呼ばれ、人に行使するのを禁じられる中級高位に位置する操演術。対象を自分に服従させるモノだ。 難易度が高い魔法だが、対象が下級中位獣種であること、さすがはマルフォイ家であることが成功した理由だろう。 「さすがマルフォイ家と云うことかな、けどより制御が楽な魔法のほうが皆の参考になったんだけど」 シンジは苦笑し、ドラコを評価しながら狂犬を片付ける。 「『穢れた血』とは違い、優秀な血ですから」 ハーマイオニーを蔑みながらドラコは席に戻ってく。 「ハリー・ポッターにも無理だろう」 ハリーの横を通るとき告げる。確かにドラコは優秀なのだけれど慢心があるのが勿体ない。そう、評価するのはロン、観察眼も鍛えられているようだ。 ドラコが二人を蔑んだのは、ハーマイオニーは魔法使い同士の親から生まれた『純血』ではなく、魔法が使えない普通の人、マグル出身の『穢れた血』であること。 ハリーはドラコの親が敬んだあのお方、最凶最悪の魔法使いウ゛ォルデモートを殺したとされる者。ドラコは親から聞いていた話しによって歪んだ思いがハリーに対して存在するのだ。 ハーマイオニーとハリーは二人ともドラコの言葉は気にしていなかった。『禁忌』に触れることさえ言われなければどうでもいいのだ。代わりにシンジが自分の教え子を蔑まれ肩が少し震えたが三人の先生でなく、今は二寮の先生であると自分に言い聞かせ落ちつかせていた。親バカである。 「じゃあ今日は終わりにします。『魔』に対して判断し、逃げるか制してください」 そう云うとシンジは部屋を出ていった。真剣な口調は疲れるなと思いながら、ふと、あることを思いだす。 「そおいや、そろそろ冬休みだなぁ」 シンジの初の正授業が幕を降りた。 雪が降り、樹々に積もり、シンジとハリーがいるここは、日本にある和風な屋敷。田舎にあって隣家に行くだけでも時間が掛かる閉じられた空間である。この場所はシンジの『世界』であり、『異界』である。建てられている物の多くが、創られた物であるのだ。 ホグワーツ魔法術学校は冬期休暇であり、シンジとハリーは里帰りしに来たのである。 「炬燵は気持ちいいね〜」 シンジは炬燵に入り、蜜柑を食べ、正月番組を流している。今日はお昼の残り物のお節とお雑煮を食べて、ハリーは今洗い物をしている。 クリスマス、初詣でというイベントをこなして、怠惰な生活をしているのである。 シンジの『世界』なのだから、時期は冬でも春のように過ごしやすい季節の状態を創れるのだけれど、その時期にはその時期の環境にしている。風情がどうとかシンジは云っているのだ。 洗い物を終えたハリーが居間に戻って来た。 「ハリー、たしか今日だよね?ハーマイオニーとロンが来るのは」 ハリーは炬燵のシンジの向かいの位置に腰をおろす。 「そうですよ、休み前に約束して、フクロウ便で届いたクリスマスカードや新年の挨拶のに楽しみにしてますって書いてありましたよ」 ハリーは炬燵の上に乗っている蜜柑を食べながら答える。 「そう。で、どうやって日本に来るの?というより僕の『世界』は識っていないと見つけられないし、入れないよ」 炬燵に入りながら横になり、ぐーたらしながら尋ねる。 「それはもちろん………あ、先生に云うの忘れてた」 「何が?」 「家まで向かいに行くんですよ。そしてここに一緒に来るんです。」 「へぇ、住所は分わかんの?」 「手紙に書いてありましたから分かりますよ。はい、これはハーマイオニーので、僕はロンの家まで行ってきます」 そう云いながらハリーはシンジにハーマイオニーの住所が書かれている手紙を渡した。 「電話してるとき、ハーマイオニーも日本に来る話題のとき迎えをお願いします、と言えばよかったのに」 「はは、まぁいいじゃないですか。ロンにはもう手紙で今日行くと改めて伝えました」 ハリーが苦笑しながら言う。 「じゃあハーマイオニーには電話してから迎えに行くかな。ハリーもそろそろ迎えに行くんでしょ?」 シンジは携帯を取り出した。 「そうですね、じゃあ先に行ってます」 ハリーは立上がり玄関に向かって行った。 シンジの持っている携帯は普通の携帯ではない。只単に携帯を模している形だけの物だ。普通の携帯では、シンジの『世界』内に中継塔を創っても電波が『世界』と『世界』の境界でとぎれてしまうのだ。よって、物に『ルーン』を刻み、特定の周期波長を持つ魔力を通わすことにより、任意の他に『ルーン』を刻んだ物と繋ぎ、音声画像のやり取りをできるようにしたのだ。 これにより、シンジから相手の場所は分かるのだか、ハリーがシンジに住所が書かれた手紙を渡したのはハーマイオニーを迎えに行ってくれという意思表示で渡したのだ。 ロンには携帯を渡していない、これはこの『世界』のモノではなく、魔法界に存在しないモノだ。この『世界』でも『古代ルーン』というモノで存在するが、『魔霊語ルーン』と今までに研究されてきた研究結果が異なるのだ。 ロンの家はウィーズリー家という魔法使いの家庭で、ロンは隠しきれないと思ったので受けとるのを断ったのだ。 ハーマイオニーの家はマグル、普通の人の家庭であるので魔法と魔術の区別ができず、外部、すなわちこの『世界』の魔法使いに漏れないと思ったので初めて会ったときに渡していたのだ。 シンジは携帯(似)に魔力を通わす、『ルーン』を刻んだ箇所が淡く光り相手と繋げる。 遠い異国の地でハーマイオニーは携帯(似)が淡く光っているのに気付き、魔力を通わした。そしたら、空中に平面な画像が現れシンジが映っている。 「シンジさん」 ハーマイオニーは柔らかい表情になっている。 「やぁ、ハーマイオニー。これから迎えに行くという連絡だけなんだ。親に話してある?」 「はい、今日出かけるのも迎えが来るのも話してあります」 ハーマイオニーが微笑む。服装は長めのスカートでカーディガンを羽織っている。 「じゃあ今から行くから」 「はい、待ってます」 シンジはそう言うと携帯(似)をきって、影を展開する。ずぷずぷ沈んでいって碇邸には誰も居なくなった。 ハーマイオニーの部屋に影が染みだし、シンジ現れる。ハーマイオニーはその光景を見ていた。 「いらっしゃい、シンジさん」 ハーマイオニーは笑顔で出迎える。ハーマイオニーの部屋は書物が多くあり、けれど、整頓されておりすっきりしている。 「どーも」 シンジは軽く手を上げ挨拶するとベットに腰掛ける。ハーマイオニーは椅子に座っており、シンジのほうを向いている。 「どうする、すぐ来る?それかハーマイオニーの両親に挨拶したほうがいい?」 親には既に今日行くと言ってあるので、ハーマイオニーは少し思案して。 「ん〜。いいです。日本に行っちゃいましょう」 シンジは立上がり。 「そう?じゃあ掴まって」 シンジがそう言うと、ハーマイオニーは腰にしがみついた。 「いいですよ」 下から見上げてくるハーマイオニーを確認し、シンジは影を展開する。 「慣れないと思うけど大丈夫だからね」 ハーマイオニーにそう言うと、二人は影に沈んでいった。 日本辺境『異界』碇邸敷地。雪は既に止んでいる。影が染みだしシンジとハーマイオニーが現れる。 ハーマイオニーはその場で上を見上げながらゆっくりと回り、その後シンジの方を向き、笑顔を浮かべる。 「ホグワーツと比べても、負けないくらい自然があって、いいところですね」 「そう創ったからね、旅してきたなかで一番好きになれた場所なんだ、ここは」 あえて、この場所がどのような風景かは語らない。誰にも一つは綺麗だと思える想い出の場所があるだろう。ここがシンジにとってその場所なのだ。 ハーマイオニーは今だにその景色に見入っている。 「じゃあ、そろそろ行こうか。ハリーとロンが待ってるよ」 シンジはハーマイオニーの肩を軽く叩き、歩を促した。 「はい」 シンジが進み、その後をハーマイオニーはとことこついていく。 蜜柑と炬燵がある居間には、ハリーとロンが座っている。 「とっても広いし、なんか珍しい物がいっぱいあるね。マグルの家を基本にしているんでしょ?」 ハリーとロンは今着いたばかりで、まずはシンジとハーマイオニーを待っているところだ。 「そうだよ、マグルの家、そして、日本の料亭旅館に似ていてこの家と同じようなのは少なくなってるけどね」 シンジが創った家は代々続いている古参な名家の屋敷に類似している。部屋数も無駄に多くあり、シンジとハリー、彼ら以外にあと15人以上は裕に暮らせる。既に他に二人ほど居るが。 ハリーは今だにこの屋敷を把握できないでもいる、なぜならシンジが気紛れで改竄することが多々あるのだ。最も多く変化するシンジの部屋はどうなっているか分からない。ハリーがシンジに聞くと、あの部屋は亜空間に繋がっていると云うことだ。 「ただいま」 「こんにちは、ハリー、ロン」 ハリーとロンが話していたら、シンジとハーマイオニーが居間へやって来た。 「お帰り、ハーマイオニー、いらっしゃい、広いところだから迷子にならないでね」 「お邪魔してます、ハーマイオニー久しぶりだね。ハリーの言うように迷子になりそうなくらい広いとこだよ」 ハリーとロンが笑顔で出迎えた。 「私もそう思ったわ、どこに何があるか把握するの大変そうです」 「大丈夫だよ、僕の『世界』だから迷ってもすぐ見つけられるし」 シンジはそう言いながら炬燵に入り、ハーマイオニーはそれに習って隣に座る。ちなみにこの炬燵は一辺に三人がゆったり座れる大きさだ。 「んっ?」 ハーマイオニーが小さく声を上げた。 「どうしたの?」 ロンが尋ねる。 「何か足に当たったような感じが……」 そう言いながらハーマイオニーは炬燵を捲る。 「あっ、リン……」 炬燵の中の白猫リンと目があった。 「さっきまで中庭にいたんだけど、寒いから暖かいとこに来たらしいよ」 ハリーが答える。シンジもそれに続き。 「気にしなくて大丈夫だよ、気紛れな奴だし」 説明としては何か足りないが、ハーマイオニーはなんとなく納得した。 「そうですか?なら……」 炬燵を直すと再びハーマイオニーは這入る。 「それにしても立派なところですよね」 「柾木信行の設計を元にしたんだよ。それと、もっとすごいとこ見てきたけどね」 シンジは苦笑してる。 「どんなのですか?」 「例えば戦艦なのに空間が圧縮されてて山とか川とかもあるのとか、僕と同じように『力』で城を創ってる人、三次元じゃなくて十次元、それより高次元の存在や『世界』を創世している人、他にもいろいろあったけど云っていったらキリがないけどね」 「この『世界』では考えられない『場所』があるんですね」 「『世界』は様々だからね、もう一度同じ『世界』に行くのは難しいことだけど、また行ってみたいよ」 シンジは思い出しながら語る。『伽藍堂』の中に様々なモノを詰め込んでいった。大切な思い出である。 久し振りに会った四人の会話は続いていく。 樹々に積もる雪。穏やかな風に吹かれ粉雪が輝きながら舞っている。常緑樹の葉と雪の隙間から木漏れ日が雫れている。 その光を浴びながら、少女が歩を進める度に雪を踏む小気味良い音が聞こえてくる。 開けた場所に着くと、少女は座るのに手頃な岩に雪の上から腰を降ろす。少女の前にはシンジが連れてきたときに見た、あの景色が広がっている。 この『世界』には生物の音が聞こえない。小鳥の囀り、虫の泣き声。その代わりに川のせせらぎ、雪の樹から落ちる音が聞こえてくる。 生きるモノの『起源』を定めて創り出すことをシンジはできないでいるのだ。例外としてリン、植物、土等があるが、今だに創世の決心がつかないのである。 ハーマイオニーが景色に見入っていると、雪を踏む足音が聞こえてきた。振り替えると、そこには白いマフラーをし、茶色のコートを着ているロンが歩いている。ハーマイオニーが振り替えったのにロンが気付くと 「おはよ、ハーマイオニー」 白い息を吐きながら挨拶をしてきた。 「おはよう」 ガーディガンを羽織り、珍しくズボンを穿いているハーマイオニーの隣にロンは腰掛けた。 ロンは数秒、景色に見入っていると声を発した。 「……凄い所だね、幻想的って云うのかな」 自分の気に入りの場所を褒めて貰えてハーマイオニーは嬉しく思う。 「初めて見たときにまた来たいと思って、善い所よ。ロンはどうして来たの?」 ハーマイオニーはロンの方を向き小首を傾げて尋いてみる。 「朝起きたら、寒いのにハーマイオニーが外に出ていったからさ、どうしたんだろうと来てみたんだ。けど、こんな所があったんだね」 そう云いながらロンは景色を眺めている。ハーマイオニーも再び前を向く。 「ねぇ、ロンはどういうことをシンジさんから教えて貰っているの?私とハリーとは違うことよね」 唐突だとハーマイオニーは思ったが、何をしているのか探求心によって尋いてみた。 「ん、情報、いや、記録かな、それを刻んでもらっての応用。僕は『魔術師』としてポテンシャルが低いからね。シンジさんが前居た『世界』で『錬金術師』ってのかな。ここの『世界』にも居るけどモノを造るだけじゃなくて、『高速思考』『分割思考』が主で、計算による予測をし、最速且つ最善の結果がでるようにするんだ」 ロンの魔術回路、制御できるマナの絶対量、貯蔵魔力は少ない。他にも『魔術師』としての器は小さいモノだった。 ホグワーツ魔法術学校の『魔法』は杖によって使えるが、その先の未来は『魔法使い』として今一なモノになるだろう。 よってシンジは研究者として優れている『アトラス院』の『錬金術』を授けた。予測を司る存在としてロンはどのような結果が出たとしても最善の行動を取れる器を持った者だった。それに『知識』を多く刻んでも『彼岸』へ行かなかったのである。シンジは行かないよう注意しながらやったが、人格に影響が全くないのはロンの器だろう。 『高速思考』とはそのままの意味で理解して貰いたい。 『分割思考』とは思考を分割し、一つの事柄に対して幾つもの通りで考え、複数の事柄に対しても対応できる。『アトラス院』歴代の者で8分割が記録されているが、ロンは6分割できる。つまり、6の6乗、46,656通りの考えができ、これは『アトラス院』でも上位のモノである。 「『錬金術』、『世界』って色々なことができる人がいるのね。ホグワーツからの手紙が届く前の『非日常』が今では『日常』になってるわ、楽しいから善いけど」 そう云ってハーマイオニーは微笑む。充実している毎日を過ごしているからだろう。 「ハーマイオニーは『魔術師』として何を目指すの?シンジさんに教えて貰うだけじゃ満足しそうにないけど」 「私は、勿論『 』に辿り着くのが目標よ、因果を遡って『 』に辿り着くの。その途中結果が『修復』。論理の仮定では『蘇生』ができそうよ、それに延長で『白』に辿り着くかもね」 そう云ってハーマイオニーは微笑む。 全ての事象は、原因があり過程があり、結果として発現する。その原因にも原因がある。それを遡れば『根源』に辿り着けるだろう。 『 』とは『 』に似て非ずモノ。その派生によって現在は創られ、『過去』『現在』『未来』『凡て』を識ることができる。探求欲の塊の『魔術師』が皆求めるモノである。 ハリーがトロール殲滅のときに壊した物を修正できたのは『過去の具現』―――過程の中の一つの結果である。 『蘇生』とは公式が難しい。と云うよりもシンジにも使えないモノだ。その公式を模索し、又は公式を創る必要があるかもしれない。 それと『蘇生』には複数手順がある。まず魂の説明をしよう。魂、つまり魂魄は三魂七魄と云って『三魂は六道に輪廻し、七魄は骸に残る』。 躰の臓器が大丈夫ならそのまま『蘇生』し、躰が足りないのならば一部から過去に遡り修正させる。 そして骸に残った七魄から修復し、三魂を補い魂魄を形造る。しかし、それだけではいけない。魂に内容されていた心が凡てを無くしていて『人形』であるのだ。シンジと云う『人形』は莫大な記録と綾波レイと渚カヲルによってProgramingされた存在で未完成であったのだ。 意識とは心と脳の接触によって生まれるモノで、脳は外部からの情報を入力され、心に記憶し、心からの指示を再生や編集を行う再構成機関であるのだ。 記憶とは物質の時間的経過。物質は空間において質量と云う形で把握されるが、時間の経過は、物質の『時間的な質量』。これが『記憶の原形』となり、存在するモノ凡てに『物質的記憶』、つまり『世界の記録』があるのだ。 催眠や暗示なので脳に誤認させ記憶を造ることができるが、それはまさに他者によって生まされた『道化』となる。けれどその人格を尊重するのを忘れると多重人格者が異端とされてしまうので折り合いを付けて考えて欲しい。そしてその『生』は『世界』に別として記されていく。 『世界の記録』を綾波レイと渚カヲルは『人形』に記録はできたが記憶させることができなかった。否、『世界の記録』を『世界の管理者』が創った中間管理者アダムが造りし、使徒リリス、使徒ダブリスが使えきれなかったのである。 シンジは自分の『世界』で生まれた命は勿論『蘇生』できるが、別の『世界』では『抑止力』に阻まれるだけでなく、『世界の記録』に仮接続し記録を汲めるが、正接続できないので『蘇生』が無理なのだ。 正接続できる存在は数少ない、だが、『世界の記録』の一部に繋ぐことができる存在はいる。『魔術師』や『吸血鬼』である。 例えば『神代の魔導』を用いて、転生先を選び記憶を『世界の記録』から転送したり、躰を造り死後その躰に魂を移し同時に転送するよう刻んでおく等である。 『吸血鬼』に血を吸われた場合、死に、魂まで穢れ、腐敗する。 だが、運が善く、素性があれば、意識なく血を求め動く屍骸『グール』になり、躰を復元し意思持つ屍骸を『リビングデッド』、『世界の記録』から生前の記憶を転送すれば『ウ゛ァンパイア』となる。 接続の説明まで来たが、『吸血鬼』の説明を続けたいと思う。 意志を持ち力ある血を吸う鬼『ウ゛ァンパイア』は立派な吸血種だが、血を吸った親に中たる『死徒』の支配を受ける眷属であるのだ。よって支配を退けば『死徒』であるが、親の『死徒』を滅ぼせば立場が確定する。 しかし『ウ゛ァンパイア』になれるのが極僅かであり、『死徒』となれるのはほとんどいない。 その過程、『死徒』になってもだが、吸血鬼は躰の存続のために新鮮なDNAの摂取のために人の血を吸う。吸血鬼は躰の存続のために人の贄が必要なのだ。 『魔術師』、『吸血鬼』は自分の魂から『世界の記録』へ繋ぎ、自分の『記録』しか転送できないのが常である。 そして、この『世界の記録』のみが生前同様の心とすることができるのである。 これを他者の魂から接続し心を元に戻すのは不可能であるが、それを成すのが ―――魔法:蘇生 である。 躰が欠片もなく、七魄がない場合は『世界の記録』に正接続し『今まで在る世界』の『世界の記録』を検索し、躰を造り魂を造り心を転送し、蘇生させるのが色の名を冠する ―――魔法:白 なのだ。 「具体的な目標だね、僕はもっと気ままにやるよ」 そう云うと、ロンは背を倒し仰向けになって空を眺めた。 「ねぇ、ロン」 ハーマイオニーの声が小さくなった。 「何?」 「ハリー、大丈夫かな」 言葉足りないその質問に、ロンは凡てを理解したうえで云った。 「大丈夫だよ。シンジさんがいて、華稟さんがいて、リンがいて、ハーマイオニーがいて、僕がいる。『こっち』側に居て、更に『彼岸』には行かせないよ」 ハリーは飄々としているが、その身に宿した『魔眼』が危うい。枷が外れると、凡ての想いを識り、ハリー・ポッター個人が消えてしまうモノだ。 「だから、僕はハリーの凡てを認める。『観測者』にはなれないから、せめて『親友』として『彼岸』に行かないように繋ぎの鎖の一つになりたい」 ロンは変わらない、何が起きても 「そうね、皆がいるし、私も鎖の一つになりたい」 ハーマイオニーも背を倒し、仰向けになるとそこには澄みゆく蒼空が見えた。 絵 双葉 シンジとハリーは調理場に立って朝食を作っている。ふいにシンジの手が止まる。 「先生どうしたの?料理の途中で手を止めて」 ハリーが包丁で切るのを止めて、卵焼きを作っているシンジに尋いた。 「ん、なんでもないよ」 シンジは意識すれば自分の『世界』の事は凡て解る。ハーマイオニーとロンをハリーの鎖となるようにしたのは自分が望んだことだがこれは運命を弄ぶのと同じではないかと思うと――― ―――胸がズキリと痛んだ。 そう云いながらシンジは皿に盛り付けた。その後ろから腰までの艶のある黒髪を後ろで束ね。硝子細工のような紅い双眼。小さい鼻。小さな口。人形のような美しい貌立ち。シンジに合わせる漆黒の和装に白い羽織り。シンジと同じ程の身長。十七、八歳の女性がシンジの背中により懸かった。 「一人で考えないで、この『世界』には私も居るんだから」 「そう、だね」 皿を居間にシンジは運びに行く。その後ろから彼女は着いて行く。 「訳解んないし、先生も華稟さんも」 ハリーはそう云いながら向き直ると料理を続けてゆく。が、 「ハリーは大切だってことよ」 絵 双葉 いつの間にか戻ってきている華稟がハリーの髪をクシャクシャと撫でている。 ハリーにとって料理の邪魔だが、この親のされるがままにされている。下手に止めると泣かれたり、逆様に抱き付かれたりされるからである。 「そういや、ハーマイオニーとロンは寒くないのかなぁ、こんな冬の朝に」 そう呟くとハリーは切り終えた。二人が来てからの三日目の朝が始まる。 第三章 一つの想い 終幕
授業、屋敷、語り、想いと坦々と進んでしまった気がします。起承転結がうまく結べていないかなと不安です(汗) |