死せるもの
第一章 二人の絆
―――ズキリ。 頭の痛みで目が覚めた。部屋は暗く。まだ夜は明けていない様だ。カーテンの隙間から月明かりが差している。志貴が寝る前に見上げた空は、雲一つ無く広がる星星の海と蒼い満月が輝いていたから、今宵は闇に包まれる夜でも明るかった。 月明かりが隙間からしか差さない、外よりも暗い密封された志貴の部屋。此の暗闇の中でも視える『線』は、なぜかとても綺麗に見えた。 せん、線、セン。点、テン、てん。 意識しないで天井の『死』が視える。アルクェイドは物の死は視え難い、と云っていたが嘘じゃないか。こんなに綺麗に視えるなんて―――自分が変なのか。その判断は出来ない。志貴には判らない。 ―――ズキリ、ズキリ。 また、頭が痛んだ。『死』を視ようとすると、脳髄が悲鳴をあげる。 ―――ズキリ、ズキリ、ズキリ。 頭痛が止まない。『線』が躍動し、綺麗に見える『点』が、凶凶しく朱く輝いて見える。 此処までに至って、やっと眼鏡のことを思い出した。先生から貰ったあの眼鏡を掛ければ、こんな痛みは収まるのに、そんな事さえ忘れていた。 ―――ワスレ。 眼鏡―――とは何だ。遠野志貴が崩れてゆくのが解る。とても大切な物だと思うのに、つい先程まで覚えいて、脳に刻まれた記憶が思い出せない。俺は、『死に包まれた点と線の世界』で、 ている。 何か―――大切なモノが欠けてゆく。 視界に映るのは『死』。薄明かりの中に朱く輝く『点』と『線』。 今、如何すれば良いかだ。 死んで死んで死んで。崩れて崩れて崩れて。 ―――終わってゆく。遠野志貴が終わってゆく。遠野志貴が停止してゆく。遠野志貴が死んでゆく。 ―――ズキリ。 青年と女性。二人が岩造りの部屋に居る。灯りは無い。それ故、部屋の中は漆黒の闇に包まれている。壁は 青年は地べたに腰を下ろし、女性は僅かに視線を上に上げ、壁に寄り掛かって居る。 ―――少し、不可思議な点がある。彼らは此の部屋に居る。しかし、此の空間には出入り口が見あたらないのだ。壁には扉が無く、床にも天井にも勿論穴など無い。出入り口がない密室、と云う、有り得ない状況に二人は陥っているのだ。 青年は座り 女性は天井を見上げ乍ら、一瞬表情を曇らせたが、天井から視線を外すと青年を見やり、にぱっ、と柔らかな微笑みを浮かべた。すっとした柳眉。宝玉の様な朱色の瞳。小さな鼻。形の良い唇。さらりと肩まで伸びた金色の髪。白いサマーセーター。青いロングスカート。黒い靴。豊かな胸。繊細な磁器の様な色素の薄い手。長い足。 美しく綺麗な容貌だが、微笑みを浮かべるととても穏やかで柔らかな表情になる。 「志貴、如何しよっか?」 志貴は一つ溜息を 「矢張り、俺の所為かな」 志貴は問いに答えず、少少情けない表情で云った。 「気付けなかった私も悪いと思うし、志貴だけの所為じゃないよ」 女性は問いに答えられなかったのを気にした風も無く、微笑みを浮かべたままだ。 「アルクェイド、如何して微笑っていられるんだ?」 アルクェイドは何を云っているんだ、ときょとんとした表情になってしまった。彼女にとって色褪せたセピア色の世界を色彩豊かな素敵な世界へと変えられたのは志貴のおかげなのである。 志貴無くして今のアルクェイドは居ない。そして、彼女にとって志貴は世界と同義なのだ。此の世界とは彼女が暮らしている楽しい生活の事だ。無駄を楽しむ事を教えてくれた世界はとても素晴らしく、有意義なものであった。しかし、此には条件がある。志貴が居ないと色彩豊かな世界が成立しないのだ。志貴が居ないと世界は再びセピア色に色褪せる。 アルクェイドにとって志貴が居さえすれば、どんな環境でも生きて行ける。大好きな志貴と一緒に居られれば、其れで善いのだ。 また、アルクェイドは微笑みを浮かべた。 「其れは勿論、志貴と一緒に居られるからだよ」 志貴は其の純粋な言葉に頬を赤く染めた。アルクェイドの想い全部を知っている訳では無いが、此の純粋な想いは気恥ずかしさがある。恥ずかしいけれど嬉しい。―――まあ、志貴のアルクェイドへの想いも相当なものだが。よって、志貴は貌を背けてぶっきらぼうに云う。 「そっか」 アルクェイドは微笑ったままである。 志貴とアルクェイドは知人の遺跡オタクに勧められ、此の地に遣って来たのだ。二人共、オタクと呼ばれる彼、メレム・ソロモンのような、遺跡への興味はない。しかし、世界各地を巡る彼らは観光を兼ねて遺跡調査もしているのだ。世界を巡る一つの理由は、協会からの依頼―――死徒殺し―――だが、景色を眺めたり、海を泳いだり、賭事をしたりと楽しい無駄を重ねている。メレムから受けた誘いはこうであった。 中国チベットに新たな遺跡を見つけたんだよ。姫君も行ってみないかい。 実はこんなに短くない。世間話に始まり、遺跡について某説明おばさん並に数時間語ったのだ。―――長過ぎるので省略。 そんなこんなで遺跡にやって来た志貴とアルクェイドは、始めはメレムを合わせての三人だったのだが、メレムが道行く途中にマニア垂涎の宝を見つけ、二人が話しかけてもイッちゃていたので、メレムを置いて行ったのであった。 メレムの二人を誘った目的は、憧れの白き姫君―――アルクェイド―――と親しく話すことだったのに―――悲しきは メレムを残した志貴とアルクェイドは順調に奥へ奥へと進んでいたのだが、志貴が一休みをしようと提案し、腰を下ろしたときに異常が起きた。 魔術ではない―――魔法の域である。『世界』を形成するなんて現代では出来る筈がない。其の空間で一つの『世界』を成すとは非現実的だ。もしかしたら此の遺跡は『神代の時代』のモノなのかもしれない。しかし、志貴とアルクェイドには既に魔術か魔法かなんて関係ない。 今、如何するかだ。 「―――ふぅう」 志貴は 「此しか方法がないか。アルクェイド」 志貴は立ち上がるとナイフを持ったままアルクェイドへ歩み寄った。 「うん、私も其れしかないと思うよ」 此れ其れと代名詞だが、志貴とアルクェイドには伝わっていた。 志貴はアルクェイドを片手で抱き寄せた。 「上手くいくかな」 不安を隠しきれない志貴の声。そして、志貴の眼鏡をアルクェイドが外す。 「私が私たちの『世界』へずらしてみるから。最低でも私たちが生きられる『世界』へ導くわ」 アルクェイドは笑顔を絶やさない。志貴が不安に思っている事はアルクェイドにもよく解る。だからこそ、アルクェイドは笑顔でいるのだ。 志貴たちのやろうとしているのは、魔法によって形成された此の閉じられた『世界』を『殺す』事である。誰が造ったかは解らない此の『世界』を志貴ならば『殺せる』。『世界』が無くなったなら二人は弾かれ、何処か解らない『別の世界』へと跳ばされるのだ。全くの未知の『世界』へと跳ばされる筈なのだが、世界の触手たる真祖―――アルクェイド―――ならば、自分が属する『世界』へと導く事が出来る筈である。―――筈なのである。こんな事をアルクェイドはした事がない。だから上手く『元の世界』へと帰れるかは解らない。未知なのだ。不安はある。しかし、アルクェイドの『願い』は志貴と共に居る事。 「じゃあ、やるよ」 志貴のアルクェイドを抱く力が強まる。絶対に離さないという想いを持ち、志貴の蒼色になった眼に、『世界』の『死』が映された。 トスッ そんな音が聞こえた気がし、志貴がナイフで空虚を穿った様に見えた。何もない虚空にナイフが突き刺さる。 たった其れだけで―――。 ―――『世界』が崩れ、終わり、死んだ。 土と草の薫り。森の香に、鳥の啼き声。そして、暗闇。 目が醒めた志貴の視界は、本人の予想通り死んでいた。が、暗闇に包まれていても、音と匂いと床の堅さが、自分が今生きている事を教えてくれる。 だが、その暗闇の中でも、『点』と『線』は見えた。 志貴は首を曲げて枕元を見回し、眼鏡らしき『線』が引かれた物体を掛けた。『点』と『線』が消えた。そして、寛悠躰を起こした時。 「志貴ぃーー!」 起きあがった自分の胸に、少し強い衝撃と柔らかな感触が伝わり、日向の様な香りが志貴を包んだ。 「やっと起きた。大丈夫?」 「ああ、矢張り視覚は死んでいるけど、此の感覚なら一週間ぐらいで回復すると思うよ」 志貴はアルクェイドを抱き返し乍ら答えた。 魔法によって造られた一つの『世界』を殺した時の頭痛は、死ぬ様な痛みだった。脳髄がズギズキと刺激され、熱に浮かされた様になっていたのだ。今回の代償は視神経が停止したことだった。『世界』を殺すのに其の程度の代償で済んだという事は、作成された『世界』に何か不備があったのだろう。魔法の魔導公式が『世界』を成すのに足らない手順があったに違いない。そうでなかったら、『世界』を『殺す』なんて事は視神経の停止だけは、で出来なかった筈だ。 「―――善かった。志貴が無事で」 アルクェイドは志貴を抱く力を強めた。 「俺は死なないから、安心しとけ」 「けど心配だから」 「―――ありがと。なあアルクェイド、此処は何処だ?―――帰れたのか」 アルクェイドは首をふるふると振った。 「『元の世界』まで届かなかったよ。流れ着いたのは『別の世界』だった」 「なっ!?アルクェイドは大丈夫なのか!?」 志貴はアルクェイドの肩を正面から両手で掴み、見えない瞳にアルクェイドを映した。 「私は大丈夫よ。『元の世界』からの供給は断絶されているけど、『此の世界』の 吸血鬼の真祖は、死徒の様に生きるために血を吸わなくても平気な代わりに、強烈な吸血衝動がある。もし、血を吸うと云う真祖の禁忌を犯したならば、血の味に酔いしれ、理性が無くなってしまうのだ。其の為に真祖は自分の力の大半を吸血衝動を押さえる為に使っている。 肉体を持った精霊である真祖は、『世界』から力の供給を受けられる。故に『世界』が在るならば、無限に供給される力によって自分の吸血衝動を押さえる事が出来る。アルクェイドは『元の世界』で、力の七割を吸血衝動を押さえるのに使っていた。しかし、自分が属する『世界』でない『此の世界』では、其の供給は断たれてしまう。それ故アルクェイドはやむなく、『世界』を成すのに必要な共通要素である霊子―――エーテル―――を変換し、自分の力にしているので或った。だが其れは『元の世界』と比べて効率が悪い。なので『此の世界』では吸血衝動を押さえるのに力の九割を必要としていた。 「なら善かった」 志貴は両腕でアルクェイドを抱き直し、ふわっ、とアルクェイドの頭が志貴の胸に 「俺はどんだけ眠ってた?」 「志貴は着いてから五日間眠っていたわ。それと、村―――【ヤマユラ】と呼ばれる村―――を見つけて休ませて貰ったの。私も少し眠ると共に、『此の世界』の事を最低限必要なだけ『知識』として汲み上げたわ」 「有り難いね。村の人にお礼を云わないと」 「うん、皆善い人ばかりよ。そして志貴、今の内に『元の世界』と『此の世界』の簡単な違いを教えとくわ」 「ああ」 「まず、人間に獣耳と尻尾がある」 「人って、俺たちみたいな格好なのか?」 「うん、『元の世界』と同じ様。その上、獣耳と尻尾は様様なものがあって、犬耳やら猫耳とかがあるわ。耳の違いで民族が違う様よ」 「―――犬耳か」 志貴がぼそりと云った。 「志貴?」 「否。なんでもない」 「そう?次に、時代は『元の世界』の戦国みたいな感じ。服は和服の様な民族衣装になってるわ。此処は日本の様な島国で、色色な人が其れ其れの自領を治めてるみたい。殿様の事を皇と云うんだって。戦が絶えない様よ」 「戦か―――物騒だな」 志貴は溜息を吐いた。死徒殺しの依頼を受けて『世界』を巡っていたが、平穏を望む、と云う思いもあるのである。 「言語も違かったけど、私が吸い上げた言語の『知識』を、メレムが使っていた魔術を使って志貴に施したから普通に会話できるわ」 「それは善かった。英語でさえ満足に覚えられない俺には必要だね」 「ええ。それと……」 アルクェイドは云い淀んだ。 「如何した?」 「『此の世界』の人間は、『元の世界』の人間と私を比べたら、どちらかと云うと私に近い存在みたい」 「俺にとって『魔』と云うことか」 「ええ、志貴の『七夜』の業である退魔衝動が働く事があると思うから、意識しといてね」 「 アルクェイドの説明が一通り終わった時に、一人の女性が志貴の寝ている家に駆け足で這入ってきた。 此の家は木や 「アルクェイド姉さん、急に消えたから吃驚して戻ってきたわよ」 若さがある、凛とした声だ。 「ごめんね、ソポク。志貴が眼覚めたから急いで戻ったのよ」 「おや、姉さんの男、起きたのかい」 女性は微笑みを浮かべて、優しい口調で志貴に向かって語り掛けた。 「姉さん?」 志貴は首を傾げた。 「此の村では、血が繋がってなくても村人皆が家族で、年上には姉や兄と呼んでいるのよ」 「アルクェイドが、姉、ねぇ?」 「何よ志貴、私が年上なのは了解るでしょ」 「ああ、うん、そうだね。800歳の年上なんてそうは居ないね」 志貴はクスクスと微笑った。 「アルクェイドは家族と呼ばれるまで打ち解けたんだね」 志貴はアルクェイドがたったの五日で、此処まで馴染めるとは嬉しかった。アルクェイドの事だから、自分が吸血鬼であることを隠すとは思えない。其れでも馴染めるのは、アルクェイドの性格と村人の穏やかさのおかげだろう。 「処で、あんたも吸血鬼なのかい?」 「―――ッ。はあ?」 ソポクの言葉に志貴は言葉を詰まらせ、曖昧な疑問系の問いを発した。 「いやね。耳に毛と尻尾が無い人はそう云う部族なのかと思ってね。あんた達以外にも、耳に毛と尻尾が無いハクオロって云う善い男が居るんだけどさ。あいつも毛が無かったからね。如何なのかなと」 「俺は違いますよ。多分、其の人も違うと思います。けど、耳に毛が無い人ですか―――」 「ええ、大きな地震があった日にやって来た人なんだけど、善い人さね。今じゃ此の國の皇をやってるわ」 「矢張り、毛と尻尾が無い人は珍しいんですか?」 「あたしが知ってるのはハクオロとアルクェイド姉さん、志貴の三人だけだわ」 「―――そうなんですか」 志貴はハクオロと云う、耳に毛と尻尾が無い人が気になった。アルクェイドが云うには、あるのが普通なのだから、ハクオロの方が異端なのだろう。何か違いが有る筈だ。普遍を調べるより異端を調べたほうが『元の世界』へ戻る為の何かが解るかもしれない。 「志貴、あんた眼鏡を掛けても、眼が見えないんじゃないのかい?」 後で志貴は『此の世界』に無い眼鏡について、既にアルクェイドが『直視の魔眼』を伏せて、装飾と矯正の為と説明したと聞いた。 「判るんですか?」 「ええ、ハクオロに付いていった私の家族―――村人―――のユズハって云う女の子も眼が見えないから。何となくだったんだけど、当たってたんだね」 ソポクは一瞬悲しそうな表情をするが、直ぐに微笑みに戻った。 「けど、俺のは一時的なものですよ。一週間ぐらいで治ります」 「そうかい、それは善かった」 アルクェイドが志貴の着物の袖をちょこちょこと引いた。 「如何した?」 志貴は自分の膝の上に頭を乗せているアルクェイドへ向いた。 「志貴、お腹減ってない?」 「そういや全然食べていない筈なのに、余り減っていないな。けど、何か食べたい」 志貴は自分の腹を手でさする、とそう云った。 「ソポク。ご飯お願い」 「あいよ。志貴の眼覚めの祝いだからね。いつもより奮発するかい」 「ありがと」 アルクェイドは微笑みを浮かべた。 「じゃあ、二人で待ってなよ」 その後に出されたソポクの料理は、モモロ―――芋類の穀物―――を中心にした、質素だけど、とても美味しい物だった。 土の匂い。苔の匂い。木の匂い。風が其れ等と戯れ、志貴へ運ぶ。今、志貴は【カカエラユラの森】にいる。志貴とアルクェイドが御世話になっている【ヤマユラの村】の近くの山の 「―――んっ」 志貴は大木に寄り掛かったまま手を頭の上で組み、伸びをした。黒い羽織が風でぱたぱた、と 田舎と云うより辺境である村で、何処も空気が上手いが、特に此処は其れに加えて心地善い場所である。木漏れ日が零れ、優しい日差しが志貴へ降り注いでいる。 志貴は昼寝を終え、村へ戻る事にした。歩き易いとは世辞でも云えない道だが、川のせせらぎや鳥の啼き声が聞こえ、道の険しさを忘れさせてくれる。 村の入り口に着いた。村はかわぶき屋根の家が十数屋並んで、水路には水が流れ、収穫の時期が近づいているのか、畑には色の良い緑の葉っぱが列になって生えている。村人は辺境なのに豊かとは云い難いが、穏やかな暮らしを過ごしている。 着くと、アルクェイドが駆け寄ってきた。 アルクェイドの服装は『此の世界』では目立ちすぎるため、和装の物に変えている。服装は―――巫女服。何処で知ったか志貴は知らないが、似合っているので不服は無い。と云うよりも大賛成だ。 「また森へ行って来たの?」 その表情は置いて行かれた不満も含んでる様だ。 「ああ、眼が見えるようになって、どんな景色か気になってたからね」 「誘われたら私も一緒に行ったのに」 「また今度行こうな」 志貴はアルクェイドの頭をクシャクシャ、と撫で乍ら言った。 「む〜。まぁいっか」 「アルクェイドは何をしていたんだ?」 「ん?テオロたちと畑仕事だよ。鍬を持って、こう、ガシガシと」 アルクェイドは鍬を振るう手振りを交えながら云った。白き姫君が畑仕事―――シエルや秋葉だけではなく、彼女を知る者、皆が驚く事だろう。 テオロとは、ソポクの夫であり、幼馴染で、見た目が親父くさい人である。気さくな人柄で、此の村を纏めている者だ。否。纏めていると云うより、纏めさせられていると云った方が良いのだろうか。ソポクが若く、女性乍ら、此の村を纏めているので、一番の労働力として使われている。 「そっか。俺も後で手伝うかな」 「そうだよ。それに、ソポクの事だから『働かざる者食うべからず!』って云うに決まっているよ」 「へぇ、アルクェイド姉さんはそんな事思ってるのかい」 アルクェイドの後ろには、御握りの様な物を持ったソポクが立っていた。テオロたちへの差し入れだろう。志貴は挨拶しようと思ったが、其の時には既に、青筋を立ててアルクェイドを見ていた。 「うん。ソポクは度胸が強いからそう云うよ。―――あれ、度胸は関係ないかな」 アルクェイドは振り返ると、そんなソポクに笑顔のままで言った。 「はぁ。そうかい。まぁ、いいけどね」 アルクェイドの笑顔に怒る気が失せたのか、ソポクは溜息を吐いた。 丁度其の時。志貴とアルクェイドは表情を強張らせた。志貴が入った入り口とは反対の、他の村へと続く道を眺める。 「どうしたんだい?」 ソポクは急に黙った二人を不思議に思い、声を掛けた。 カーン。カーン。カーン。カーン。カーン。 ソポクの表情が強張った。村に甲高い音が響き渡る。此の音は村の外れから聞こえてくる音。普段なら絶対に鳴らない音。其れの意味する事は、村の危険。それも人為的な。 「此処に来るのか」 ソポクは志貴の声が何処か遠くに聞こえる。 「数は15。少ないわね。他の村にも向かっているのが居るけど、合計では500も居ない」 アルクェイドの呟き。しかし、辺境の村村を潰すには適切な数だろう。 ソポクが駆け出そうとした。其の腕をアルクェイドが掴む。 「如何するの?」 「決まってるさね。子供、年寄りを避難させる時間作るんだ。あいつが居ない今は、私が此の村を支えるんだよ」 瞳に強い決意を映す、肝が据わった女性。 其処に、見た目が力強く親父くさい男がやって来た。テオロだ。 「ソポク」 「あんたはハクオロに伝えてきな。此の國で戦が起きるってね」 妻である自分を残して伝言に行かせるのだ。しかし、テオロは頷くのみ。信頼しているのはソポクか、同じ村の出のハクオロ皇か。否。両方なのかもしれない。ソポクになら任せられる。ハクオロなら打開策を持っている。そんな思いなのだろう。 「おまえも気を付けろよ」 もう会えないかもしれない。けれど、テオロの言葉は力強い。 テオロが走り出そうとした時。 ゴチン テオロの足が掴まれ、貌から地面に打つかった。 中り処が悪かったのか、起き上がらない。 「な、何してるんだい!?」 「良いから私たちに任せて。こういうの得意だから。ねっ、志貴♪」 いつもの笑顔のまま、テオロの足を掴んでいるのはシュールだ。 「得意って云うか、何て云うか。まあ平気ですよ。だからソポクさんたちは避難を優先して下さい」 ソポクは志貴の声を聞いて、反論しようとした時には、既に志貴とアルクェイドは居ない。 「―――如何云う事さね」 気絶しているテオロが可哀想であった。 【ヤマユラの村】にテオロが戻って来た時には凡て片付いていた。彼は気絶から回復した後に、此の國、【トゥクスル國】の皇―――ハクオロ―――の下へ向かったのであった。其の時皇邸も襲撃を受けていて、戦に参加し、皇邸が陥る事にはならなかった。ハクオロは故郷である【ヤユマラの村】へ行きたがったが、國の皇として事故処理等の為に行けなかった。テオロとハクオロの側近の一人であるクロウは、兵を引き連れ、急いで村へ戻ったのだ。 其処にあった光景は平穏無事な村の生活。敵兵は皆骨を折られ、縄を括られ、無血で成し遂げられた様だ。此の偉業を成した志貴とアルクェイドはハクオロに会う事になった。二人は『異端』であるハクオロに興味があったので、其の誘いを受けたのだ。村を出、志貴とアルクェイドはハクオロに出会う。 第一章 二人の絆 終幕 あとがき つくづく私は、自分がクロスオーバーと云うジャンルが好きなのだと解りました。web上に無いのなら自分で書こうと思う決意。読みたいから書いてしまう。其れも物書きの理由としたら、大事なものの一つではないでしょうか。『朱眼鮮血』もそうでした。 此れのプロットは途中まであり、一応最後の構想もあります。『うたわれるもの』を知らなくても読める様に書いていきたいと思います。 さて、次回は皇邸へと場面が動きます。多人数を書くことを未だした事が無いので、書くキャラを絞って書きたいと思います。戦國の時代。志貴とアルクェイドのバトルをする場面を何時か書く時が来るでしょう。 それでは |