死して尚続く家族(ひと)の絆








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 私は買い物かごを提げてアパートへの帰り道を歩いている。降り注ぐ光に目を 細め、肌膚にうっすら汗が浮かぶ。



 火星の後継者の事件から一年が経った。私の指揮やアキトの技量、ルリちゃん から受け継いだラピスちゃんの電子技術、ナデシコクルーの力などにより被害が 大きくなる前に沈めることができた。

 私は軍を辞め、アキトの手伝いをしている。ラピスちゃんも学校に通いながら 手伝ってくれている。納得できないけれど、今では私よりも料理が上手い、とア キトが言っていた。むーっ、私の料理も美味しいのに。

 私は心のどこかでルリちゃんがまた私たちの前に現れてくれるのを期待してい る。手紙はもう会えないとルリちゃんが思っているという内容であり、ラピスち ゃんが継いだ記憶の『情報』でも悲観していた。
 けれど。
 ルリちゃんが起こした現象は前例がないのだから、どうなるのか解らないし。 もしかしたら神さまなんてのが居て、あっさり送り出してくれたりしないかな、 と思っている。

 ラピスちゃんは正式に私とアキトの娘となったから、ルリちゃんはラピスちゃ んの伯母さんということになる。ふてくされてからルリちゃんがラピスちゃんに 伯母さんではなくお姉ちゃんと呼びなさい、とがあーと言い放つ姿が思い浮かぶ 。うん、幸せだ。それは楽しい今をより楽しく彩ることになる。



 私はアパートに着いた。古くて狭い、私とアキト、ラピスちゃんで住んでいる 安アパート。そして。
 ルリちゃんが帰ってくるべき場所。かつかつ、と足音を起てて二階への階段を 上る。



 私は思う。ひょっとしたらもうルリちゃんは私たちの隣にいるのかもしれない 。ルリちゃんが私たちに認識させなくては、私たちは確認できないから、いるか いないかをルリちゃんから示してもらわなくては正確に把握できない。
 ただ。
 最後だからと手紙に書いた内容が恥ずかしくて、ルリちゃんは私たちの前に出 られないのではないだろうか。アキトへの告白や私のことを好きだと言った言葉 、お姉ちゃん然としたラピスちゃんへの想い。長くもなく短くもない手紙につづ られた想いは真っ直ぐなもので、正直な想い。帰れないと思って書いたいたのに 、なぜか帰れてしまい、自分で書いた手紙の内容に赤くなって迷っているんじゃ ないかな。



 私はアパートの二階に着いた。そしたら蒼い姿の娘が私たちの部屋の前で感慨 深げに佇んでいた。

 ああ、ほらね。彼女が帰ってくる場所はここなのだ。

「おかえり、ルリちゃん」

「ただいま帰りました、ユリカさん」

 彼女は振り返るとはにかみながらそう言った。

 私は荷物を落としてルリちゃんの下へ駆けていく。

 私たちは続いていく。
 いつまでも途切れない家族の絆で結ばれて。







死して尚続く家族の絆 終幕









あとがき


 初めはgood endはありませんでした。true endだけです。け れどtrue endは綺麗な終わりであれはあれで良いのですが、やっぱり居 残りものがあるのも定番かな。アルクェイドグットエンドを思い浮かべて、よし 、書いてしまえ、と。

 家族四人は幸せに暮らして行くんじゃないでしょうか。アキトとユリカの禁忌 は5/でなくなってしまいましたし。アキトとユリカはルリちゃんと手紙付きの 別れで、明確な個として感じたわけです。二つを重ねて比べてしまうのが禁忌な のだから、明確な個となったら印象がそれぞれ別になります。あの人はあの人、 この人はこの人という感じですね。

 そして実は、true end後のルリちゃんは逆行してます(笑) 5/で はアキトが眠っていたので明らかにしていませんでしたが、『情報』の搾取は今 まで通り行い、新しいプログラムでアキトを媒体にして離れた位置からユリカを ボソンジャンプさせたんです。そのときに遺跡があーなってこーなってで跳んじ ゃいます。

 俗に言う魂や精神のみの逆行で、既存のルリに取り憑かず、幽霊みたいな情報 体で在ったり。プログラムを魔術と呼んで、主に電子情報や人の脳髄に干渉でき る魔術師になるんではないのでしょうか。『世界』相手に乱雑に搾取した『情報 』の中に魂を物質的に固定化する方法があり、今後『世界』に触れなければ結構 図太く生きるルリちゃんが居そうです。

 それでは。
2004.04.17完結




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