死して尚続く家族(ひと)の絆








5/



 星野ルリは死んだ。
 俺を救うために消え去った。こんな、俺のために。

 俺は天河アキトが嫌いだ。木連の闇、北辰よりも己は救い難い獣であり、己よ り生き汚い奴はいないとさえ思っている。

 躊躇なく手に持つ刀でずぶりと殺せる俺が嫌いで、
 関係のない者は殺したくないと考える俺が嫌いで、
 義妹の面影を義娘に重ね見てしまった俺が嫌いだ。



 シャトル事故から数日で救われた俺は健康体であった。その後、真相を知った 俺は業火で身を(かれた。骨随の奥の闇か ら火が洩れ出で、一本一本骨と言う骨の隙間から絶望が湧き出した。――そして 何より、ルリちゃんが二度目の死を迎えた事実が俺の身を灼き尽くした。

 その時俺は壊れた。否、俺とユリカはずっと前から壊れていたのだ。ただそれ が、無理に揃えていた(ガラスが音を立てず に崩れただけのこと。

 ルリちゃんは俺とユリカを救う手段を、確実だが代償が高すぎる手段を用いて 消え去った(死んだ。俺を検索し、ユリカを検索中に限界を迎えた。ユリカは未だ奴らに捕らわれたままなのに、俺はのうのうと陽の下に救い出された 。

 俺はルリちゃんの命を贄にして救われ、どこかでユリカは未だに苦しんでいる。

 ――巫山戯(ふざけるな。



 許しがたい。許しがたい現実だ。ルリちゃんが俺のせいで二度目の死を迎え、 ユリカが苦しんでるなんて許しがたい現実だ。
 しかし認めぬとは言わない。起きた事象を俺は否定しない。
 だから。
 それからの俺は変わった。心はナイフの切っ先のように尖り、流れる血潮 は温かみを持たない氷の鉄となり、構成する骨肉は泥の如く穢れた人形となった 。

 アカツキから剣を、月臣から呪を、俺という(さかづきは黒い泥に満たされた。



 殺す殺す殺す。俺がいた実験場と同じ地獄を惨殺して行く。白衣の白をまだら 模様の朱に染め、狂った脳髄を飛び散らせ、業火の炎で灼き尽くした。
 俺は火が好きだ。ゆらりと揺れる火は俺の身から湧き出た絶望でできている。 俺の火が飛び火して、俺の地獄が白衣たちの聖地を燃やし尽くして、俺の心が更 に灼かれて朱く染まる。

 しかし。

 無関係の人が死ぬのは厭だ、と思っている俺がいる。甘すぎる。俺は日常の中 に暮らすコロニーの住居者に被害が出ないように局所へ飛んで惨殺している。甘 すぎる。白衣の者でも家族の名を呟く者に対して心のナイフの切っ先が振れる。 甘すぎる。外道になりきれぬ愚か者が俺である。

 過去に攫われて運ばれた実験場で見た、周りの人たちが壊されてゆく光景は俺 の心に痕を残したが、――正直に言おう。俺は自分が壊されなかったから甘いの だ。もし、あの地獄にずっと居て、ユリカが壊されていくさまを見たら、俺が壊 されて五感がなくなるようなことになっていたら、ここまで甘い殺人者は生まれ なかったと思う。一つの目的と一つの意志を持つ闇の皇子となり、関係無関係を 問わずに殺し尽くしたと思う。俺は殺人鬼にも復讐鬼にもなりきれない甘すぎる 馬鹿者だ。吐き気がする。

 そして。

 何より酷い罪はラピスにルリちゃんを一瞬重ねてしまったことだ。ラピスを俺 の下に置いたのは戦艦の鍵としての役目だが、俺は過去の平穏の憧憬をラピスを 通して夢想してしまったのである。

 肌理の細かい柔らかな白い肌膚と桜色に染まった銀色の髪、硝子玉の様な綺麗な瞳。

 一瞬でもラピスをルリちゃんと重ねてしまったのはラピスに酷く、ルリちゃん にも酷いことだ。
 そうして。
 その行為は自分自身で禁忌に触れる大禁忌。同■■など存在す■■■がないの に重ね■■■て、■■■なことだ――。親しい者と親しい者を重ねてしまう行為 は、過去に俺とユリカが禁じた禁忌。

 一度目に死んだルリちゃんと二度目に死んだルリちゃん。
 肉体を持ったルリちゃんと『情報』として在ったルリちゃん。
 同じ姿形に同じ思考に同じ記憶に同じ意志同じ同じ同じ。

 強制終了。終了終了終了。忘れろ。思考するな。閉じよ。消去しよ。忘却せ。 ぁぁぁ、ああああああ■■■■■■。



 俺とユリカの禁忌は『情報』となって存在したルリちゃんを星野ルリの偽物だ 、と断罪してしまうこと――。























 白亜の城、ユーチャリスの自室のベットで俺は膝を組み、片足を伸ばした姿勢 で壁に凭り掛かっている。簡素な部屋だ。直線で造られた( はこ。中にはベットしかない。何もないガランドウとした部屋であ る。

 俺の目的は研究室や実験場を襲撃し、データや実験体を回収し、ユリカがいる 場所を調べることだけではない。北辰に連なる実働部隊を殺すのも目的だ。故に 戦艦と機動兵器を用いている。



 カツ、ッィィィン。



 すうと扉が開いた。俺以外にこの部屋に入って来る者は一人しかいない。今や 娘と言っても過言ではない俺の半身、ラピスだ。

 ラピスは桜色の髪を踊らせて部屋に入って来た。

「アキトさん」



 ――さん?



 ラピスは俺をアキトと呼ぶはずだが――。

「――ブイ」

 ラピスがブイサインをしたら、ラピスの姿がぶれた。ジジ、と画像が切り替わ るような音を起て、ラピスが消える。代わりに――。
 肌理の細かい柔らかな白い肌膚と蒼みがかった銀色の髪、硝子玉の様な綺麗な瞳。

 瞬間、俺の背中を電撃が走り過ぎた。雷は脳髄を浸食し、ぴりぴりと痺れを残 す。次に心臓を一つのナイフに穿たれ、血が心臓から逆流して、痛みが精神を尖 らせた。

「なっ!?」

 喉咽の奥がからからする。水分が干上がった。

「この娘に手伝ってもらってやっと現界することができました」

 ちょっと無理をしてしまいましたが、とラピスは、否、ルリちゃんは胸に手を 添えてそう言って微笑った。

「――な、なぜ」

 そんなことは問わずとも解ってる。過去に聞いたことがある。ルリちゃんが帰 ってくる場所は家族の処で、『世界』に散った自分を形造る『情報』は時を掛け れば集まって形をなせると言っていた。

 死んだ一度目は現界するのに一週間掛かって、『世界』を取り扱って消えた二 度目は数年を掛けて現界した。否、未だに現界するのには時間が足らず、ラピス を触媒としてかろうじて現れられたのだろう。

 俺はゆっくりベットから立ち上がり、ルリちゃんの下へ近付いた。身体が重い 。水の中で動くように体が鉛のように鈍い。

 俺はルリちゃんの頬に手を添えた。柔らかな感触がある。しかしこれはラピス の肌膚。視覚がルリちゃんを見ていると誤魔化されていても、現実は変わらずに ラピスの肌膚であるはずだ。

 ルリちゃんは上目遣いで俺を見上げて、頬に触れている俺の手におずおずと小 さな手を重ねた。

「久しぶりにアキトさんに触れられた気がします」

 そう言ってルリちゃんは頬を桜色に染め上げた。小さな手を添えられた箇所が じん、と温かく感じられた。

 ルリちゃんは頬に触れている俺の手から自の手を離し、俺が伸ばしている腕の 下を潜った。俺の手は離れた温かみを名残惜しげに空を掻き、俺は後ろに向かっ たルリちゃんの方へ振り返った。ルリちゃんは白いベットの上をよたよたと這っ て、壁に凭り掛かった。

 ちょこんとベットの上に座っているルリちゃんはぽんぽん、と自の隣を優しく 叩いた。座って、と言うことなんだろう。その仕草をするルリちゃんは柔らかく 微笑っていて、どこか年上のような雰囲気を纏っていた。

 俺は促されるままに隣に座った。肩が触れ合う近さに寄り添って、ルリちゃん の温かみを感じる。しばらくぼう、としていた。俺は話さない。ルリちゃんも話 さない。ルリちゃんは俺に今の現状を整理する時間が必要だと思い、黙っている んだと思うが、俺の思考はいつになく落ち着いていて真っ白だった。ああ、それ ならなおのこと時間が必要か。

 ベットの上の俺の手にルリちゃんが小さな手を重ねてきた。ぴくっ、と俺の肩 が震えたが、伝わる温かさが手から全身に広がって胸を打つ。

 俺はゆっくりとまぶたを閉じた。ここは無骨な戦艦の自室だが、俺はいつか見 た桜の花を暗闇の中で幻視した。ルリちゃんが見せているのだろうか。否、違う な。俺の心が過去に見た幸せな光景を再生させているのである。俺がいてユリカ がいてルリちゃんがいる。今はラピスも一緒だ。そんな幸せな光景を白昼夢の如 く俺の脳が見ているのだ。

 アキトさん、とぽつりとルリちゃんが呟いた。俺は応えずにルリちゃんの声に 耳を傾ける。

「実はですね。アキトさんとユリカさんを探すために『世界』を検索する前に、 『世界』のシステムに作用するプログラムを創っていたんです」

 真っ白な思考は綿の如く言葉を脳髄に染み込ませるが、何を、言ってるのだろ うか。再会のときに前回の別れの話を持ち出すなんて――、今言うということは 、大切なことなのか。

「アキトさんとユリカさんが危険な状況の場合に、周囲の者に<疑問を持たず生 かせ>と言う暗示です。傷つけないのを、世話するのを、そういう生かす状況を 作り上げるプログラムなんです。魔術みたいですね」

 そう言ってルリちゃんは微笑った。



 ルリちゃんは『情報体』の存在となって『世界』という摂理、システムの深い 部分を理解できたのだろう。俺やユリカの脳髄に直接姿や言葉、意志などを伝え る手段を使っていたから、その影響を与える範囲を広くして稼働するプログラム を創ったのか。

 『世界全体』から『情報』を搾取する行為よりも『世界』に影響を与える『情 報』を創る方が楽だったのだろう。それならば検索をしないでプログラムを起動 させれば良いと思うが、それではいけない、か。プログラムを起動させるのにも 一度『世界』に触れなければできないからだ。『世界(システ ム』にプログラムを組み込むには『情報の海』に堕ちなければなら ない。検索もプログラムも命賭けである。だが、現存技術も使わずに新たな方法 で影響を与えるなんて、本当に魔術みたいだ。

 つまり、もし俺とユリカを見つけだすことができなくても、危険な状況にさら されないように先手を打っていたのだ。

 ユリカはこの『世界』のどこかで

 傷つけられずに、
 壊されずに――、
 ――生きている。



「そして、私がこの娘を触媒にしてまで現界した理由(わけは、その施したプログラムの解期が迫って来てしまったんです」

 ユリカさんのために頑張って現界したんですよ、とルリちゃんは言った。

 俺は言葉が発せない。ルリちゃんに会えた嬉しさが大きくて思考が停止し、ど うしてルリちゃんは会えた喜びを言葉にしないのか判らず、なぜルリちゃんがこ の重要だと思われる会話を今しているのか解らない。喜びを分かちあってから俺 がユリカを救出すれば良いのではないか。しかし。
 ただ、俺は言葉を脳髄に綿の如く染み込ませる。

 俺が感じられるのはルリちゃんの小さな手の温かみと言葉だけ。

「だから検索と新たなプログラムを行う前に、もう一度だけアキトさんに会いた かったので来ました」

 ルリちゃんの声の調子は変わらない。否、若干温かみが増した。けれど俺の綿 は染み込ませるだけでなく、無色だったはずの染み込む水に色彩が付き、その 僅かなシミに違和感を持った。聞き流せない言葉がなかったか。ルリちゃんの言 葉。



 ――もう一度だけ。



「――ルリ、ちゃん」

 俺は声を震わさないように耐えた。せっかく会えたのに、まるで別れのように 感じられるルリちゃんの言葉が俺の心を震わせたのだ。

「――ユリカが返ってきたら、また、家族で暮らせるんだよね」

 重ねられていたルリちゃんの小さな手がぴくっ、と震えた。

「――――――」

 沈黙が痛い。束の間に見た桜の景色なんて既にない。しん、と静まり音がない 。静寂が怖い。ルリちゃんは――。

 俺は隣にいて前の壁を見ているからルリちゃんの顔は見えない。しかし。
 ルリちゃんの表情はさらり、と髪が覆ってしまい、俺が返り見ても判らなかっ ただろう。

 ルリちゃんはぽつり、と言葉を(こぼす。

「――ん〜、私も限界が近いのでさよならを言いに来たんです」

 なるべく明るく、顔には無理矢理笑みを貼り付けてルリちゃんは言った。

「もう私は、アキトさんとユリカさんと暮ら――」



 ぽふっ。



 俺はルリちゃんが言い切る前に、肩に手を回してぐい、と掴んで引き寄せた。 ルリちゃんは俺の膝の上に乱れた形で乗った。蒼みがかった銀色の髪が、俺の視 界を覆いながらさらさらと舞い、ふさ、と柔らかに落ち着いた。胸に妹の淡い吐 息が感じられる。

 俺は息を吸う。足らない。

「言うな!! 大丈夫だから、俺が必ずユリカを救う。ルリちゃんがいなくなる 必要なんて、ない!」

 俺は肚から声を上げた。肺から限度を越えた息を吐き出してしまい、胸が痛い 。否、そんな体の痛みよりも心が痛い。ぐう、と心臓が締め付けられるようで、 既に壊れていたと思っていた心が悲鳴を上げる。

 ルリちゃんは抱き締められたままもぞもぞと動き、上目遣いで俺を見上げた。 すぐ目の前にルリちゃんの顔がある。穏やかな微笑み浮かべているのに、その金 色の瞳は濡れている。

「――ダメですよ、アキトさん。解期に間に合わなかったらどうするんですか。 ユリカさんにもしものことがあったら、私は厭です」

 凛とした声音。自分がどうなってもいいから大切な人を救いたい。決意した者 の声だ。



 ――ああ、俺も厭だ。けどルリちゃんがいなくなるのも厭なんだ。



「だからってルリちゃんが死ぬことはない。三度も別れるなんて厭なんだよ。ほ ら、俺ら家族だろ。みんなで乗り切ろうよ。俺とユリカ、ルリちゃんで一緒に笑 おう。ラピスもいるからさ。賑やかな家族だ」

 視界がにじむ。鼻の奥がじん、としてすうと涙が頬を流れる。

 情報であるルリちゃんが、肉体を持っていたルリちゃんの真か偽かなど関係な い。ルリちゃんはルリちゃんで、それがもし別人のルリちゃんでも、情報である ルリちゃんも大切なんだ。二人が同じ人でなく、違くてもかまわない。どちらも 大切な、妹なんだ。

 妹の決意を鈍らせたくて言葉を紡ぐ。が、ルリちゃんの意志は揺るがない。何 か、何か方法はないのか。ルリちゃんが無事で、ユリカも解期という時間に間に 合って助けられる方法は――。

「トクン、トクン、って音がしてます」

「――ッ」

 俺は息を詰まらせた。ルリちゃんが俺の胸に頭を預けている。俺が抱き締めて いる肩は小さく、這わしている腕にはルリちゃんの柔らかい肌膚の感触を感じら れる。

「アキトさん、――私は既に死んでるんです。だから、生きて下さい。生きて、 幸せになって下さい」

 俺とルリちゃんの瞳は離れない。優しげに細められた目に俺の意志が吸い込ま れる。硝子玉のような美しい金色の瞳。

「だけど――」

 俺は言葉を遮られた。口唇に柔らかな感触。ルリちゃんの口唇。ついばむよう な幼い口付けだ。

 んっ、と息を洩らしてルリちゃんが顔を上げた。

「――私の、ファーストキスです」

 今までに見たことがないルリちゃんの顔がある。これ以上ないほどに頬を赤く 染め、上気している。

「――ルリ、ちゃん」

「私はアキトと過ごせて幸せでした。もう、夢は終わりです。ユリカさんと幸せ になってください。では」

 始めます。アキトさんに少し協力してもらいますね、とルリちゃんはイタズラ をする子供のような微笑みを浮かべた。俺は涙が止まらない。
 そして。
 意識が闇に沈む隙間に、虹色の光に包まれながら最後に見た、ルリちゃんの微 笑みは

 女神のようで、
 天使のようで、
 妖精のような、

 可愛い微笑みだった。























 意識が覚醒し始め、闇の中で声が聞こえる。
 この声は――。

「ぅぇ〜ん、うぇ〜ん。アキトー。ルリちゃんがー、ルリちゃんがー」

 ――ユリカだ。

 ベットの上で目が覚めるとユリカが俺に抱きついて声を上げて泣いている。俺もユリ カを抱き返した。久しぶりに聞くユリカの声。嬉しいはずなのに、胸にぽかりと 穴が空いたような悲しさが大きい。

 俺の隣にはラピスが座っていた。

「ユリカにはルリから聞いた内容をオモイカネに説明させた。ユリカはルリに護 られていたのを気付いてたって」

 視線で問うと答えてくれた。

 そうか。ユリカは気付いていたんだ。監禁されて何もされずに生かされていた のを疑問に思ったのだろう。周りの人が壊れていくさまを見せつけられても強い 心で耐えたのか。

 ルリちゃんに護られてお礼をする前にいなくなってしまった。家族で暮らそう と思っていたのに欠けてしまった。深い悲しみだ。俺もユリカも互いに会えた喜 びよりも、家族が、ルリちゃんがいなくなってしまった悲しみが大きい。

「ん、アキト」

 ラピスはポケットから数枚の紙を差し出した。字が埋まっている。

「ルリからの手紙。アキトに会う前に書いたみたい。ユリカを助けるために『世 界』に触れたら消えちゃうから」

 俺はその言葉に震え、差し出された手紙を受け取った。

 俺はユリカに声を掛けて一緒に手紙を読むのを促した。泣いていたユリカもル リちゃんの手紙だと聞くと涙を耐え、柔らかな文字に視軸を落とした。



「「――ルリちゃん」」

 俺は涙が止まらない。隣にいたラピスも抱きしめて、ユリカとラピスを包み込 んで――泣いた。嗚咽が零れる。つづられていた手紙は俺の涙を止まらせない。

 ユリカは俺の胸に顔をうずめて声をルリちゃん、と上げて泣いている。























 おはようございます、アキトさん、ユリカさん。

 ごめんなさい。その――。ユリカさんが帰ってきたら私はもういないと思うの で、手紙にします。映像でもいいかな、と思ったのですが、恥ずかしいのでやめ ました。

 アキトさん、今まで本当にありがとうございました。ごめんなさい。
 アキトさんと家族になれて本当にうれしかったです。ごめんなさい。
 こんな私を、見捨てないで、好きでいてくれてありがとうございます。

 うーー、 何でこんな恥ずかしいこと、改め言わなくちゃいけないかという と――。

 愛していました。ごめんなさい。最後にこんなこと言って迷惑ですよね。
 けど私は伝えられなかったから、手紙で伝えました。恥ずかしいんですよ。書 いている私も。



 ユリカさん、好きです。ごめんなさい。一緒にいられるだけでうれしい、と言 いましたが、やっぱりアキトさんのこと愛していました。ごめんなさい。ユリカ さんも好きです。二人とも私にとって大切な人です。

 私、こんな体になって以来、情報に流されていろいろなことを知りましたが。
 アキトさんとユリカさんと暮らしていたのが一番好きでした。

 桜を見に行ったり、山に登ってみたり、本当に楽しいことだらけでした。
 いつまでも忘れないでいたかったです。私の記憶って崩れて立て直してで曖昧 なんです。あ、でもアキトさんとユリカさんのことを忘れた日はありませんでし たよ。いつもいつも心の奥にしまっていたからかもしれませんね。



 話は変わりますが、ラピスちゃん。幸せになって下さいね。
 アキトさんと一緒にいたから解ると思いますが、胸がじんとなる想いをたくさ んして下さい。

 それとユリカさんは本当に良い人なので、ラピスちゃんもすぐに馴染めると思 います。優しくって温かい人ですから。

 いっぱい甘えて下さい。



 せめてミナトさんとホウメイさん、ユキナさん、メグミさん、ウリバ タケさん、リョーコさん、ヒカルさん、イズミさん、イネスさん、アカツキさん 、エリナさん、プロスペクターさん、ゴートさん、ジュンさん、御統小父さん、 ナデシコのみんな。私の好きな人たちには一目会いたかったです。けど仕方ない ですね。

 アキトさん、ありがとうございました、と、ごめんなさい、と、さようならを 伝えて下さい。

 私はナデシコのみんなが好きです。

 ごめんなさい。
 こんな頼みをしてしまって、いつもアキトさん、面倒な悩みを聞いてくれてあ りがとうございました。私が一人でできなかったら、そっと手伝ってくれてあり がとうございました。
 ユリカさんの笑顔を見ているときは、私もうれしくなって、悩みを忘れて楽し んじゃったことがあります。ありがとうございました。うれしかったです。ユリ カさんの笑顔には不思議な力があります。



 アキトさん、ユリカさん、最後に、一つだけお願いがあるんですけど、

 幸せになって下さい。

 アキトさんとユリカさんが一緒にいたのは本当に幸せそうに見えましたが、も っと幸せになってください。

 それでは、これからアキトさんに会いに行きます。お別れです。
 さよなら。また、です。あ、また、はもうないんですね。
 ごめんなさい。ありがとう。

 すき。

 PS.アキトさん、ユリカさん、アパートでの生活、楽しくて幸せでした。
 PS.アキトさんに最後、ぎゅっ、と抱き締めてもらえたらいいな。
 PS.アキトさんとユリカさんが心配です。借金、なんとか返しましょうね。
 PS.バカばっかなナデシコが好きでした。
 PS.バイバイ。







5/ 終幕









あとがき


 書いていて泣きました。推敲していて泣きました。だめです。私は涙腺が弱い ので、自分が書いたのでも泣いてしまいました。

 ルリちゃん、良い娘です。サイカノで手紙がとても善かったのでルリちゃんに も書かせたのですが、一番泣きました。

 あと一つエピソードがあったのですが、次に回してしまいます。

それでは

 




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